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ザ・ロードの東京キネマのレビュー・感想・評価

ザ・ロード(2009年製作の映画)
1.8
最初、何の話かさっぱり解らなかったのですが、30分くらい経ってこれがハルマゲドンの後の世界観だってのが解りました。 そうか、だって題名が 『ザ・ロード』 だもんね。 最初から気付けよ、そんなこと。(笑)

この原作ピューリッツァー賞を受賞してるんですね。 なんかキリスト教原理主義者とかが好きそうな内容です。 でもティピカル・ジャパニーズの私としては、どうもこういった内容には違和感を覚えてしまいます。

“人間らしさを失うまいと振る舞い続ける父親の無限の愛” とか、 “善良な人として生きなければならない” とか、嘘こけ。(笑)

この父親ってのは、他人の家の倉庫から平気で食い物を盗むし、食い物を取られた盗人には腹いせに身ぐるみ剥がして放りっぱなしにするし、リヤカー一杯食い物を持ってるくせに、死に損ないの老人を見ても一回メシを喰わせるだけ、別れる時に少しは食べ物分けてあげればいいものを息子に言われて渋々缶詰を一個恵んであげただけです。 唯一しなかったことは、人肉を喰わないってことぐらい。 だから、全然(日本人が考える)人間らしくないんです。

そもそもこのストーリーの前提になってるのは、地獄のような状況になれば人は盗むものだし、食べ物がなければ人を殺して喰うことも厭わない、っていう設定なんで、どうも気に喰わないんですよ。 福島見なさい。震災後、何日間も食べなくたってちゃんと列に並んで待つし、人の食べ物を横取りするような人もいないじゃない。 だからこういったキリスト教的な原罪論てのは日本人の価値観とは異質のものなんですよね。

どうしてこういった宗教観になっちゃうのかを考えると、恐らく 「命を守る」 ってのが最上位の価値観になってるからなんでしょうね。 そうなると、とにかく生きるためだったら何してもいいってことなんでしょう。 自殺がダメ、っていうのも恐らくこういった価値観が前提にあるからでしょうし。

でも、日本ではソフトアニミズムというか汎神論的な宗教観だから、「命」 ってのはそれほど価値観の高いものじゃなくて、むしろ 「どう生きるか」 や 「どう死ぬか」 の問題なんですよね。 つまり、 “お天道さまが見てる” ってことで道から外れることはしないんです。

こういった日本人の価値観ていうのは世界に誇れるものだと思うんですけど、大戦後はこういう価値観を全て否定しまった訳です。 これをある人は「戦後の親殺し」と言いましたが、それまで何千年にも亘る日本人の価値観を占領軍と一緒に社会主義者やらなりすまし、日本人やらが一緒になって壊してしまったんですね。 いや基本的には覚醒しない日本人がいけないんですけどね。 だから、現在の日本の最大の危機っていうのは、経済の話じゃなくて価値観の喪失なんです。

そう言えば、 “命を守りたいんです!” とかいったバカが居ましたね。 こんな事を言えば人気が取れるだろう程度の何にも考えてないバカ政治家が政権を取るっていうのも日本が劣化している証拠なんでしょうが、そういった状況の中でもどっこい福島の人達が日本人としての価値観を世界に発信してくれていた訳です。

もしかすると、そういう宗教観というか人生観、死生観を考えるうえで、この映画はいいテキストになるのかも知れませんが、まあ見なくても何も変わりゃしません。 ましてや、勘違いして子供と一緒になってこの映画を観ようなんてことは是非とも止めてもらいたいもんです。 こんな人肉喰うような映画見たらトラウマになっちゃいますよ。
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