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椿三十郎のろのレビュー・感想・評価

椿三十郎(1962年製作の映画)
5.0

「死ぬも生きるも我々9人!」
「いや、10人だ」

フォントが最高に”武士道”なクレジットを従えて、鳴り響くズンチャのメロディ。
やばい。ここにきて、クロサワ映画のサントラが欲しくてたまらない。

ひょこひょこと床下から顔をのぞかせる9人の若侍たち、田中邦衛のひょっとこ顔の愛らしさに終始癒され、凛とした佇まいの加山雄三と思わずハイタッチしてしまう人のいい人質・小林桂樹にこちらまで嬉しくなる。極めつけは奥方に調子を狂わされ、ふすまに書かれた「や」の文字をひたすらなぞる三船敏郎。おかしみ溢れる場面は白椿さながら、どんぶらこどんぶらこと次々流れてきて、とにかく笑いっぱなしの98分だった。

「あなたはなんだかギラギラしすぎていますね。鞘に入っていない刀みたい。でも本当にいい刀はちゃんと鞘に収まっているんですよ」
まだ若く、熱く、正義感に溢れる青侍たちに待ったをかける椿三十郎。そして荒っぽい三十郎を柔らかくゆるめる奥方。
「こういう解決の仕方は望んでいなかったんだが、結果そうなってしまったのも私の人徳のなさだろう。この馬面どうにかならないものか」と責めるどころか場を和ませる、城代の懐の深さに泣いてしまう。

白椿を無我夢中で切り落とす爺たち。流れてくる椿に、わあ綺麗ねと感嘆する奥方。椿の合図によっしゃいくぞとわらわら隣家へ乗り込む若侍。てんやわんやの救出劇はユニークでコミカルなのに、それぞれの生き方や信条が色濃く描かれていて深くしみた。
今まで「用心棒」が一番好きだと思っていたけれど、「椿三十郎」もいいな。そうなるとクロサワ映画をおさらいしたくなってしまう。


( ..)φ

三船敏郎が武蔵なら、佐々木小次郎は仲代達也。
9人が固唾をのんで見守る中、破られる静寂。
「彼には城勤めは窮屈なんだ。それが彼の生き方だ」
着物が汚れるなんて気にも留めずに膝をつき、黙って敬意を表する若者たち。
男らしい背中に重なる”終”の文字があまりにも粋で、「あ~!みたな~!映画をみたな~!」と嬉しくなった。


2017年3月 鑑賞
2024年1月22日 再鑑賞
ろ