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ゆきゆきて、神軍のkuuのレビュー・感想・評価

ゆきゆきて、神軍(1987年製作の映画)
4.0
『ゆきゆきて、神軍』
製作年 1987年。上映時間 122分。
ドキュメンタリー映画監督の原一男が、過激な手段で戦争責任を追及し続けるアナーキスト・奥崎謙三の活動を追った傑作ドキュメンタリー。
神戸市で妻とバッテリー商を営む奥崎謙三は、自らを『神軍平等兵』と名乗り、『神軍』の旗たなびく車に乗って日本列島を疾駆する。
1987年の初公開時は単館上映ながら大ヒットを記録。
第37回ベルリン国際映画祭でカリガリ映画賞を受賞するなど、国内外で高く評価されたそうな。
戦後75年、奥崎謙三生誕100周年となる2020年の8月、全国のミニシアターでリバイバル公開。

ある日、自身がかつて所属していた独立工兵第36連隊で、終戦後23日も経ってから敵前逃亡の罪で2人の兵士が処刑されていたことを知った奥崎は、その遺族らとともに真相究明に乗り出す。時には暴力も辞さない奥崎の執拗な追及により、元兵士たちの口から事件の驚くべき真実と戦争の実態が明かされていく。

日本において、また、現代においては主義主張の右左の境界線は見えない。
以前の日本にはその境界線はハッキリ見えてとれたが、過去の右左には共通項が少なからずあった。
それは、愛国心と人民を想い憂い行動すること。
現代の日本の右左にはそんなものほぼ皆無で、右は左を、左は右をネットワーク上揚げ足をとるだけ。
そないな現代にうすら寒さすら感じる昨今、こないな作品がリバイバルヒットしたと聞けば、日本もまだ捨てたもんちゃうなぁなんて思う。
第二次世界大戦中、当時、ニューギニアに駐留していた日本人にとって、生活は地獄やった。
ジャングルの酷暑の中、四方を敵に囲まれ、食料も水も乏しい中で、兵士だけではなく人々は生き残るために必死で卑劣なことをしなければ生きていけなかった(盗みに強盗、殺人にカニバリズム等々)。
ほとんどの人は、自分の体験を忘れたい、あるいはなかったことにしたいと思う。
『臭いものには蓋をする』
分からないでもない。
しかし、一人、過去を忘れようとしない男がいる。
反主流派アナーキスト、奥崎謙三。
彼もまたニューギニアに駐留していた。
そして、運命が彼に与えた使命は、かつて所属していた部隊の2人の兵士の謎の死の真相を突き止めることだと考えていた。 
終戦から約40年後、奥崎はこの調査に乗り出し、信じられないような、不快な真実を発見する。
原一男監督の今作品は、ある意味、下手なバイオレンス映画より迫力があり、Vシネマなんかの殴り合いなんかめじゃない現場でのドキュメンタリーで、魅力的で予測不可能でした。
今作品は、人物研究であると同時に、日本における第二次世界大戦の退役軍人の経験を痛烈に映し出していた。
奥崎は、起きている間中、無政府主義の理想にとらわれている、ひどく奇妙な人物で、彼の探求には、正しいか否か別として全く説得力がある。
自分の論理のラッパを吹くのが好きな彼は、カリスマ的な変人であり、その調査能力は驚くほど繊細で効果的。
彼は日本中を駆け巡り、殺人事件に関わった様々な元古参兵士にインタビューする。
一時期、被害者2人の兄弟を同行させ、同情を誘うなど、巧妙な心理トリックもみせる。
奥崎は、質問と絶え間ない弾丸トークで対象者の防御を崩し、その過程で長い間埋もれていた真実を明らかにする。
しかし、奥崎は明らかに危険なジジイであり、人に話をさせるために怪しげなことをする。
カメラの存在が彼の暴走を助長しているのではないか、自分の任務を妨げているのではないか、と思うこともある。
取材対象者の大半を攻撃したり、攻撃すると脅したりすることで、奥崎は少なからずバランスを崩しているように見え、彼の調査の妥当性を疑わせる。
彼は正義の味方なのか、それとも自分の思い通りになるまで人を殴り続ける狂気のいじめっ子、いや、いじめっジジイなんか?
今作品は、奥崎をその2つを混ぜ合わせたような、狂気の十字軍のような人物像として描いている。
実際、彼の暴力的な傾向にもかかわらず、あるいはそれゆえに、奥崎は殺人事件を見事に解決し、その過程でさらにいくつかの事件が発覚する。 彼は、被害者の遺族に終結をもたらし、戦時中の日本政府がいかに無関心であったかを示している。
原監督はまた、この映画を通して、戦後の退役軍人の体験に光を当て、生き残った男たちがいかに戦闘の恥や罪悪感を持ち続けているかに光を当てている。
奥崎が尋問する元兵士たちは皆、ニューギニアの記憶に取り付かれた、ある意味で壊れた男たち。彼らが耐え忍び、参加することを余儀なくされた堕落についての話は破壊的であり、そのトラウマの重さがまだ圧倒的であることがわかる。
奥崎が2度訪れ、何度か蹴りを入れた山田吉太郎という名の弱々しい元軍人は、最も多くを語り、彼の暴露は驚異的でした。
クレジットが流れる頃には、多くの人が第二次世界大戦への日本の関与について異なる見解を持ち、生き残るために人間が沈むことのできる深さをはっきりと理解することと思います。
今作品は、ジョシュア・オッペンハイマーからビン・ワンまで、何世代ものドキュメンタリー作家に影響を与え、その力は時が経っても衰えることはない。
狂人と過ごす特別な旅であり、忘れられないユニークな映画体験を提供してます。
洞察力、痛快さ、深遠さ、山下清が『裸の大将』なら、奥崎謙三は『裸の大将軍』であり、彼を撮す今作品は個人的に傑作でした。
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