ーcoyolyー

夏の妹のーcoyolyーのレビュー・感想・評価

夏の妹(1972年製作の映画)
4.0
沖縄本土復帰直後の貴重なドキュメンタリーフィルム。それはあえて狙ってそう撮ってる。この空気感が消えないうちにフィルムに収めて残さなければと。ストーリーというよりその舞台の土地と時間が主役。その舞台の土地と時間を活かすためのストーリーを従としてつけてるだけ。

「絞死刑」もだけど小山明子が民族衣装を着た時の圧倒的正義感は一体何なのだろう。「可愛いは正義」をこれだけ体現できる人いる?それを迫害される側の民族衣装で全身から放って訴えかけられるとひれ伏すしかない。本人朝鮮人でもウチナンチュでもなく日本人ですよ?何故自分とは違う民族であるその人らの精神性ごと身に纏えるのか本当不思議。

大島渚の弱者への眼差しってものすごく私は入りやすくて、身も蓋もなく表現すると「エリートが頑張って弱者に寄り添おうと努力してる姿」なんだけど、綺麗事じゃないそのリアリズムを前にすると頑張って突っ張って立ち続けるけど腰が引けてるのも伝わってくるから、ああ一緒だ、となんだか安心する。綺麗事だけ投げつけて綺麗事じゃ済まなくなると足蹴にして帰って行く弱者を愛でたいだけの貧困ツーリズムエリートではないんだけど、立脚するところは一緒なのでそいつらへの近親憎悪と自分も持ってるそのひ弱さを何とか折り合いつけて逃げないようにしようと歯を食いしばる感じ、すごく親近感覚える。

で、大島渚が腰引けてるところに「あなた本当はこうしたいんでしょ」とその願望を具現化する小山明子の強さが眩しい。この人は賢くて本能的に何をすべきか察知もできてすごい。クレバーで美しい野獣だ。本当この人らは性愛など軽く超えたソウルメイトなんだろうなと思う。

私は小山明子的なもの求められがちだけど本当は大島渚側だから困ってしまう。私だって小山明子的存在が欲しいわ。小山明子の腹の座り方本当すごい。

大島渚の低予算映画って小山明子がいてわちゃわちゃする佐藤慶や戸浦六宏や(今作はいませんが)渡辺文雄という男たちの座組があって、この人らが素人を出迎えるという構図だけで成り立ってるので栗田ひろみやりりィはこれでいいんですよね。若い頃のりりィさんは杏さんにこんなに似てたんですね。りりィさんのハスキーボイス素敵だった。

それにしても小山明子はただの「大島渚の嫁」扱いで過小評価されているの悔しいな。もっとしっかり彼女の役者としての力量や人間としての器の大きさを評価して欲しい。タランティーノが梶芽衣子を崇めることによって再発見された的な何かないのかな。
ーcoyolyー

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