『パリ、テキサス』をベースの出発点としてソフィア・コッポラが映画を撮ると『SOMEWHERE』になり、マイク・ミルズが映画を撮ると『C'MON C'MON』になるという(舞台がアメリカの割に)静謐な二等辺三角形が完成します。なんだかフェリーニ×ニーノ・ロータやりたかったんだろうなとわかるパレードまで唐突に入れてる割に静かだったな。
これ、監督本人が妹の夫に投影されているのかな？心の繊細な機微に優しく柔らかくそよ風のように寄り添う作品なのは、もう立ち上がれない、これ以上傷つけられたら命の灯火が消える、という極限状態を監督本人も知ってるからなのかな？とも思う。
但しその優しさは男性のみに向けられている優しさだ😡
ハァ？何これ？下手に出来が良く寄り添えてる分タチが悪くてしょうがねえな！
なんかこうさ、この映画の中ですごく良い感じで優しい空気感に包まれてるのは実は男だけなんだわ。このクソ夫クソ兄クソ息子のケアに奔走している女側からしたらこんなポエポエしたこと言ってらんねえしやってらんねえんだわ。何か問題起きたら即ドラえもーん！と頼ってくるのび太たちに囲まれて絶え間無くケツ拭きしている妹。本当気の毒でならなくて。「ケアする性」に閉じ込められている妹。長男教信者と思しき母をめぐるトラブルも絶対これ兄と妹で見えてるものがあまりにも違いすぎて噛み合わなかったの手に取るように分かって冷や汗かいた。
これで気持ち良くなれるのは「ケアされる性」ことボーイズクラブの会員たちと名誉会員だけですよ。仮にホアキン演じる主人公のような接し方を女性がしてたらそれだけで大バッシング・大炎上が発生するからな。あのぎこちなさに「わかるわかる〜」で済ませられるのは同性だからで、女があれやってたら「ちゃんと面倒見ろよ！」と僕をうまく可愛がれない、ママの役割を完璧に果たせないことに怒り狂いますからね。この前子供が大怪我を負うのは男親と一緒の時が七割だか八割だかという話を見かけたんですけど、ほんこれな。見通しが甘過ぎる。楽天的過ぎる。世の中は本当はそんなに自分以外にも都合の良いように出来ていないのに自分が楽だから皆も楽に決まってる、とその成人男性優位社会に優遇されてない側の困りごとが何も見えてない。そういう非対称性に無自覚なボーイたちのご機嫌取らされるのもうウンザリ。あのクソガキがまた丁度良い温度で適度に甘えからくる反抗したりするじゃん。あの子にかつての自分を見出して甘酸っぱい気持ちになる永遠のボーイたちの自慰行為見せつけられてるこっちの身にもなれよ。お前らも甘えてないでしっかりと大人になれ。女がガールのままで留まろうとすると癇癪起こすくせに自分は永遠のボーイ満喫してるの何なの？なんでそれ許されてんの？
『パリ、テキサス』や『SOMEWHERE』の子供はああいう甘えを見せることができない子供たちでした。あの子はだから他の子たちに比べると恵まれているんだけど、それは他の物語と違って目の前の大人になりきれていない男どものケアをする人物というかドラえもんが常に電話越しにスタンバっているからなんだよね。なんであんなにスクランブル発進強要され続けなきゃならないんだあの人……ドラえもんというケアマシーンの役割を押し付けられて人間扱いされてねえんだよな……あの人も自分らと同じ人権を有している人間なんだと一刻も早く気付いてほしい……
兄視点の物語のあまりの生ぬるさに(同時進行している妹の壮絶な泥沼の物語に思いを馳せつつ)どんどん鼻白らむ私がいましたけど、まだマイク・ミルズはこういう指摘をしたら話は通じて反省しそうな人だなとも思うのでそこで少しは救われる。『グッバイ、レーニン！』の時は弟視点と姉視点のあまりの格差、断絶に最後まで暗澹たる気持ちが救われることがなかったのでそれに比べればまあまだマシだけど比較対象がとんでもなくクソってだけでもあります。
マイク・ミルズだけじゃなくこれで気持ち良くなってた男どもは全員反省しろ。
あ、冒頭の母親の介護シーンで使われてた『エステ荘の噴水』のようなドビュッシーのような音楽は良かった。あれこういう人の作品だったみたい。この人のこと知れたのは良かった。
エマホイ・ツェゲ＝マリアム・ゴブルー
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Emahoy_Tsegu%C3%A9-Maryam_Gu%C3%A8brou
https://wan.or.jp/article/show/10663
https://turntokyo.com/features/serirs-bptf39/
Evening Breeze
https://youtu.be/xkIErW5EVgs?si=1b2U6zQpQIaZeW_l
