あなぐらむ

なみだ川のあなぐらむのレビュー・感想・評価

なみだ川(1967年製作の映画)
3.8
日本映画専門チャンネル、山本周五郎生誕百二十周年特集(中途半端じゃね?)にて鑑賞。
同年の「古都憂愁 姉いもうと」と脚本も依田義賢と同じで、ニコイチみたいな若柳菊と藤村志保のダブル主演作。会社企画としては若柳菊を育てようという事だったのだろう。
昨今の山本周五郎もの時代劇に近い人情編で、妹想いのちょっと抜けたお人好の姉と、機転がきいて一番冷静な妹の姉妹の機微を、浪人で家の事を顧みない兄(戸浦六宏)との対比の中で描かれる。
依田義賢のホンはやはり丁寧かつ細やかで、目黒のさんまの件なんかのおかしみは殺伐とした剣劇時代劇にはない穏やかな気分になれる滋味がある。こんなにおきゃんでコメディエンヌな藤村志保って珍しいんじゃないか。

そんなほのぼの、今風の人情ものに見えて、やっぱり三隅が冷たく見つめているのはこの身勝手な兄の方。
戸浦六宏や渡辺文雄はこの時期の創造社での活動を考えれば、何を背負わされて出てくるか自ずと分かろうというもの。このあと「とむらい師たち」を獲る事を考えても、この兄の「天下国家の前では家族の事は二の次」という言葉には、旧帝国軍人のマインドが投影されて、同時に当時の世相であった学生運動の、理想論を語る学生の世間知らずな様も二重写しになっている事が分かる。
三隅とは座頭市、眠さまでもコンビを組む牧浦地志の映像は艶やかで、ヒロイン二人のぐっと魅力的に見せている。

藤村志保が惚れる職人に細川俊之。まだ若く、声も高い。イケメン。
小品ではあるが、愛すべき作品であり、女性映画も撮れる三隅研次の器用さが窺える一本。