ひこくろ

北斎漫画のひこくろのレビュー・感想・評価

北斎漫画(1981年製作の映画)
3.4
役者の演技は素晴らしかったが、映画としてはどうかなあと感じた。

才気溢れる天才として扱われることの多い北斎を、うだつの上がらない凡人として描いたのは面白かったし、お栄という娘を全面に押し出しているのも興味深かった。
親友の滝沢馬琴の人生をじっくりと描いているのもいい。

ただ、その時その時の北斎の置かれている状況がほとんど描かれないので、なぜいま彼がそうしたのかがまるで伝わってこない。
北斎という人間がどんな人だったかは強烈にわかるのに、彼がどう生きたかが見えない。
むしろ、北斎の娘お栄や佐七こと滝沢馬琴の人生のほうが魅力的に描かれていると感じた。
北斎という人物を描くことには成功したが、時代や物語は描けなかったという感が強い。

それでも、役者陣の演技は圧巻だった。
若い頃のギラギラした姿から、晩年のうらぶれた姿までを演じ切った緒形拳。
まだ幼い少年のような少女から、老けてなおやさしい面を見せるお栄を演じた田中裕子。
計算高いが、義理人情には厚い滝沢馬琴役の西田敏行。
頑固で融通が利かないくせに妙にエロには走ってしまうフランキー堺。
みんな、すごい演技だった。

ほんのちょっとの工夫で、たぶん格段に面白くなる。
そんな感じを受ける、とても惜しい映画だった。
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