しんしん

怪談のしんしんのレビュー・感想・評価

怪談(1965年製作の映画)
4.4
「人間の條件」の小林正樹監督

これは凄かった。日本映画、ホラー映画、時代劇という様々なジャンルを跨いで決定的な一作になっていた。

シネスコの広角な映像を活かした、静かで厳かな画面設計。長回しを基本にBGMや効果音やセリフを出来る限り排し、お囃子や琵琶音などの古典芸能の伝統的な音で物語を展開していく。怪談というモチーフの伝統性、芸術性の部分を最大限引き出すことに最高していた。その点からしても決定的であり、普遍性を持った唯一無二の作品になっていた。

予定の予算を大幅に超えてしまったらしい。だが画面の細部に至るまでのこだわり方は異常なまでで、今後このクオリティの怪談もの、時代劇は二度と作れないだろう。

「耳なし芳一」では源平合戦の絵巻物をそのまま映像化していた。普通はそんな映像いらんだろと思うが、平家の無念をそこで描写することで後の芳一に取り付く平家の怨念のリアリティを演出し、多面的で複雑な因果を完璧に描き出していた。これは映画だから出来ることであり、オリジナルを最大限にリスペクタした演出だ。

そしてラストの「茶碗の中」が個人的には一番良かった。それまではストーリーらしい因果のあるものだったが、お話として未完成で理由が分からない恐ろしさ、宙ぶらりんのまま終わらせる恐怖、さらに入子構造から時代を超えて、それを見たリアルの今現在の現実にじわじわと浸食してくる恐怖。このお話をラストに持ってきたというのがこの恐怖をさらに増幅させている。ホラーとして素晴らしい演出。

どんな映画より美しい映画だった。