せーじ

ホーホケキョ となりの山田くんのせーじのレビュー・感想・評価

4.4
216本目は、少し前に足を運んだ「高畑勲展」で凄まじい手間と情熱を知り、キチンと観ようと思っていたこの作品を。
今週末、NHKEテレの「日曜美術館」でアニメーション作家として初めて高畑勲監督が取り上げられることを知り、このタイミングで観るべきだろうと思い、レンタル。
ちなみに、観るまで未見でした。。。

すごい…
こんなに少ない、単純な線で構成されているのに、キャラクターを形作る線がいきいきと動いていて、冒頭のくだりだけで見惚れてしまう。
三種類の作画を同時に動かしているので、通常の三倍の量の作画が必要で、試行錯誤をした分も含めると17万枚も費やされた…などということは知識として理解はできるのだけれども、実際に作品を観ていると、それを闇雲に見せびらかす訳ではなく、ひたすら自然な動きを日常生活の動作に繋げることだけに全精力が費やされているというのが伝わってきて、そのことに驚いてしまう。それでいて、作品が伝えようとしている内容は「ケセラセラ」であり「そのうちなんとかなるだろう」であり「適当」という言葉なのだからたまらないものがある。「適当さ」を、ものすごく真面目に手間をかけ、妥協せずに具現化した作品なのだと思う。

また、敢えてすべてを描かない「余白」が、積極的に取り入れられている作品でもあり、最小限の作画と線だけで、その場の様子も含めての世界観が、きちんと形作られているというのもすごい。そのうえ効果音をはじめとした音の取り入れ方や選び方が秀逸で、コミカライズされた絵柄でも、きちんとリアルな世界観を感じることが出来る様になっている。アニメーションの語源がアニマ(魂)からきているというのは有名な話だが「生命なきものに生命を与える」というアニメーション本来の目的というか真骨頂を、地で行くような作品だと感じる。

正直、リアルタイムで公開されていた時は何となく興味がわかなくて、テレビ番組で観ることも無く(金曜ロードショーでは、たった一回しか放映されてないらしい…勿体ない!)今日まで来てしまったのだけれども、とても勿体ないことをしてしまったと思う。とりとめのない日常のちょっとクスッと笑ってしまうようなユーモアや、高畑作品特有の思わず声を出してしまう様な毒気や切なさなどが超絶技巧でぎっしりと描かれており、最後には「ケセラセラ」と明るく観終えることができるこの作品は、スタジオジブリの他の作品にも負けない、ごっつい作品だと思いました。
朝丘雪路さんやミヤコ蝶々さんの声も楽しむことが出来る、貴重な作品だと思います。
ご家族と一緒に、ぜひぜひ。

ケセラセラ
なるようになる
未来は見えない
お楽しみ

※高畑勲展は、東京竹橋の東京国立近代美術館で10月6日まで開催しています。
https://takahata-ten.jp/
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