フラハティ

浮き雲のフラハティのレビュー・感想・評価

浮き雲(1996年製作の映画)
4.0
マッティ・ペロンパーに捧ぐpart2。


フィンランドが失業者で溢れた頃、その当時が本作の舞台。
1992年ごろから失業率が二桁となったフィンランド。
やはり国民は生活に苦しみ、職がない人間も珍しくはなかった。
本作の夫婦もまた、それぞれ突然のリストラを受けることとなる。


本作は割と前向きな作風なのがわかる。
それはセリフからもそうであるし、劇中の歌もそういった内容がある。
ただその反面、ストーリーとしては辛いことが8割のように思える。
現実問題として楽しいことばかりの人生はほぼなく、苦しみや辛さといった要素ほど多いし印象深くなる。

その皺寄せは労働者階級であり、その日の生活すらままならないというのが現実。
あるものはアルコール依存となり、あるものは浮浪者となり、あるものは戦い続ける。
うちひしがれるような現実。
ひとつとして変わっていくことはない。
変わっていくのは悪い方向にばかり。


今はとてつもなく苦しいとき。
仕事がなければ、金もない。
苦しいことは続いていく。
労働者には光が当たらないのかもしれない。
だが生きていこう。
たった一度の人生を、こんな社会で抹殺してはいけない。

本作の展開のように、この社会を動かすのは労働者であるべき。
お金がなければ生活できないが、お金がなくとも現実をよい方向へと進めていこう。
そのためには生きること。
そして人との繋がりを忘れないこと。
そして人を信じること。
本作のラストは、自分で道を切り開くことや、身近な人間関係を邪険に扱わないことが、小さなことだが現状を打破する一つの手となりえることを示唆している。

本作の夫婦には飼い犬がいる。
素直に感情を出す犬がやはり本作では光ることになり、はしゃいでいる姿はかわいらしく、貧しくても捨てられることはないという、夫婦のどこか心の余裕を感じさせる描写としても欠かせない。


マッティが出演するはずだったが、本作を前に亡くなってしまったため、彼に捧げられている(この演出も憎い)。
それに伴い(?)アキ監督が尊敬する監督たちを印象づけるシーンもあったりする。
『ラルジャン』のポスター!
『ナイト・オン・ザ・プラネット』のポスター!
赤いヤカン!(小津リスペクト)
こういった描写も嬉しいね。
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