うめまつ

オープニング・ナイトのうめまつのレビュー・感想・評価

オープニング・ナイト(1978年製作の映画)
4.0
得るものに比例して体感時間が異常に長い為、かなり覚悟して挑んだカサヴェテス三作目だったけど、表面上の話だけで言うと本作が一番分かりやすくて観やすかった。主人公が女優で老いを演じるという事に苦悩しながらも、物語としては《舞台初日》というゴールに向かっているので迷子にはならない。もうこの時点でかなり気が楽。後はジーナ様の演技を堪能するだけで良いのだ。

まずジーナ様演じるマートル演じるヴァージニア(ややこしい)の下がり眉メイクがいちいち気になる。劇中劇の役作りとはいえジーナ様にコントみたいな過剰なメイクは不要。と見ている間は思ってたけど、もしかしたらこれは壮大なコントなのかもしれない。「人生は近くで見ると悲劇だが遠くから見れば喜劇である」のようでもあるし、物語は絶望から希望へアクロバティックに転調して大団円なフィナーレを迎える。

マートルは熱烈なファンの事故死を目撃したショックから、若さという亡霊と闘ったり、お酒に溺れたり、脚本を勝手に変えて関係者を困らせたりして、まるで離脱した霊が容れ物である身体を探すように彷徨っているのだけど、彼女にとって役を掴むという事は舞台上にいる自分の片割れを見つける事なのかな、と思った。本番の幕が上がり、観客の前に立ち、スポットライトを浴びている間だけは私という完全体になれる。何も怖くなくて何も失うものがない彼女だけの世界。そんな明るく照らされたオープニングナイトまでの、暗く長い夜の話。。。では多分ないけど、今の私にはこの理解が精一杯。
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