シズヲ

ハロルドとモード/少年は虹を渡るのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

4.4

このレビューはネタバレを含みます

生きることへの意味を見出だせなかった青年ハロルドがどこまでも自由な老婆モードと出会い、独特の死生観を交えながら愛を育む。「青年と老婆の恋」という一癖ある内容でありながら、二人の掛け合いや関係性のおかげでどこまでもピュアで愛おしい。自殺趣味の青年、奔放に生きる老婆という人物造形で「生」と「死」のイメージを逆転させているのが印象的。

ハロルドの閉塞を打ち破るモードが何よりも魅力的。生きることに何処までも前向きで、少女のように気ままに振る舞う姿が本当に愛嬌に溢れている。思い出の傘や腕の烙印など、常に明るい彼女が歩んできた人生を否応なしに想像させる演出にも締め付けられる。そんなモードが語る死生観もまた死に傾くハロルドの虚無と対照的で印象深い。

映像や演出も秀逸で、冒頭からアクの強い厭世的な場面が描かれながらも穏やかな音楽やモードの存在で決して暗い作風にならなかったのが好き。墓場や草原でのロングショット等、要所要所のカットなんかも途轍もなく美しい。とにかく映画全体がある種の詩情に溢れている。あと、肉体関係の示唆という下手すれば抵抗感を抱きかねない場面の直後に「うわべだけで二人の関係を否定する大人達の描写」を持ってくることで二人への共感を補強させる構成は上手くて好き。

ラストへの移行がちょっと急速すぎる印象もあるけど、それまで二人の関係性をしっかり積み重ねていたおかげでちゃんとしんみり出来る。モードは自ら命を絶ったけど、決して破滅的な結末ではないんだよね。彼女の生き方やハロルドに残した物のおかげで美しい程の余韻に溢れている。まるで最後の「自殺ごっこ」と言わんばかりに霊柩車を葬って、モードから貰ったバンジョーを弾きながら奔放に去っていくハロルドの姿もまたどうしようもなく清々しい。
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