ろ

Mのろのレビュー・感想・評価

M(1931年製作の映画)
4.5

「俺は選択しようがなかったんだ。自分の中に悪魔が潜んでいるんだ」

Murder(=殺人者)のM、そしてパッケージの表情が印象的な今作。

この時代でこの構成のサスペンス・スリラーってかなり斬新だなぁと。殺しやバイオレンス描写は一切ありませんが、不安を煽る演出はあっぱれ!とても面白かったです。


少女連続殺害事件が巷を賑わせる頃、
道で女の子が一人ボール遊び。電柱の貼り紙「賞金1万マルク 殺人犯は一体誰?」が大写しになる。
そこへ帽子を被った男のシルエットがヌッと浮かび上がり…「可愛いボールだね。お名前は?」
同じころ、娘の帰りを待つ母親。
心配そうにハト時計を見上げ、螺旋階段に向かって娘の名前を呼びかける。「エルシー!」

この物語の面白いところは、犯人を追うのが警察だけではないところ。
警察の捜査が自分たちの縄張りに及んで、これは営業妨害…ってことで、犯罪組織も自分たちで犯人を捕まえることにするんです。

雑木林、居酒屋、駅を捜索する警察の裏で、組織は宿無し人を使って街を見張ります。
そんなある日、盲目の風船売りがハッとする。
「今の男、あの時と同じ曲を口笛で吹いている…!」
そう、Mは口笛を吹きながらターゲットの少女を探しているんです。ショーウィンドウに映るMの目がギラギラと光って、一人の少女をじっと見つめる。めっちゃコワイです。
そんなMを宿無し人たちが追い、肩にチョークでM印を付ける。

「おじさん、肩に汚れが付いているわ」
少女に指摘され、鏡越しにM印を見つけたMの表情。
「アッ!」と目を見開いて、、これまたチョ~コワイ。
(この場面が今作のパッケージになっています)


先日、「戦後ドイツの映画ポスター展」で展示されていた今作のポスターは、赤と黒の2つのMの顔が重なっているデザインでした。
「サイコ」や「バニーレークは行方不明」のように、今作も精神疾患がベース。ジキルとハイドのような二面性を、赤と黒で表していたのかなぁと思います。

「俺の中の恐ろしい力が俺を駆り立てるんだ。俺は恐れる。自分自身に対して、人々に対して、そして亡霊に対して…」
ろ