あなぐらむ

摩天楼はバラ色にのあなぐらむのレビュー・感想・評価

摩天楼はバラ色に(1986年製作の映画)
4.1
「好きな映画」が「良く出来た映画」である必要はない。自分にとって「面白い映画」「印象深い映画」であればそれは揺るぎない価値基準となる。
本作は典型的な「身分詐称コメディ」なのだが、そのテンポの良さ、コメディとしての下品になり過ぎないアクセントが絶妙で、劇伴も素晴らしい愛すべき作品である。
今なおホワイトカラー/ブルーカラーの身分格差が酷いアメリカだが、1987年のこの映画は企業買収とレイオフを強烈に皮肉って、アメリカの無責任男・マイケル・J・フォックスがまさに口八丁手八丁(ちゃんと勉強もしています)が恋と仕事を両方、見事に手にしていく「ぼくの成功の秘密」が軽やかに描かれて見たあとに清涼感を感じる仕上りである。皆さんご存知、メグ・ライアンの「ワーキング・ガール」の元ネタである。

マイケルくんの自虐的ともとれる身体を張った演技はどこかジャッキー・チェンを思わせ、ヘレン・スレイターのショートカット姿も眩しく切り取られ(水を飲むショットの美しさ!撮影はなんとアントニオーニ「欲望」のカルロ・ディ・パルマである)、幾多の印象に残るシークエンスを提供してくれている(リムジンのシーンとか最高)。

この作品には大事なメッセージがあって、「人は諦めずにチャレンジすれば、夢をつかむ事ができる」というアメリカン・ドリームの理想こそが描かれているのである。自分の希望と違う仕事に就かされたとしても、そこから機を見て、絶えずにアプローチする事。明るさと前向きさを持つ事。マイケルくんが体現するのはこの理想なのである。
全体をおしゃれに彩るデヴィッド・フォスターの劇伴、ナイト・レンジャーのノリのよい主題歌まで、映画館で映画を見る事の愉しさを、十分に感じられる一本である。映画は理屈で見てはいけないのよ(脚本はしっかりしてます)。
流石の演出を見せるのは「フットルース」のハーバート・ロス。音楽/ミュージカル系の監督さんは、演出も歯切れがいい。

この邦題、大好きである。