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バットマン ビギンズの東京キネマのレビュー・感想・評価

バットマン ビギンズ(2005年製作の映画)
4.0
素晴らしい。そもそも子供相手のコミックを、コンセプトから組み直して丁寧に作り直し、大人でも充分楽しめる作品に仕上げるというその姿勢がいい。

シナリオの設計、アートディレクション全てが素晴らしいが、特にキャスティングは映画のお手本を見るようだ。期待収益率が高ければ高いほどマーケティング的で下品なキャスティングになり易いが、抑えめに、それも映画ファンだったら唸るほどシブい配役を揃えている。渡辺謙も勿論いいし、ルトガー・ハウアーもいい味を出している。

何故バットマンが出来上がったのか、何故ゴッサムシティが生まれることになったのか、から、バットスーツの作られ方までもきっちり説明してくれる。要するに、バットマンが生まれる状況とは“悪は人々の無関心によって作られる”ことのメタファーなのだ。

もし、恐怖によってしか悪を制することが出来ないのであれば、最終的には悪を制することだけが目的化され、その行為の中には何ら善的な要素がない。もちろん、善のみで悪を制することは出来ないのだが、だったら悪を制した後の世界に果たして善は存在するのだろうか、ということになる。物語のコアは非常に哲学的だ。

宮崎駿のアニメでも言えることだが、今多くの人々を吸引する映画というのはやはり哲学的な命題をしっかり持っていないとダメなんだろうと思う。

究極的にはエンタテインメントを担保するのは、高い精神性とそれに伴う行動美学や行動哲学だけじゃないかとさえ思う。起承転結などといった在りもしないロジックに拘泥していたら、何時になっても価値あるものは作れない。
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