Anima48

ランボーのAnima48のレビュー・感想・評価

ランボー(1982年製作の映画)
4.3
“かれの名前は、ランボー、ごく普通の若者でしかない。2日後にほとんどの郡警官が彼を追っているとは誰にも想像できなかっただろう。...”確か原作はこういう出だしだったと思う。
 
再会を楽しみにしていた戦友はベトナムの枯葉剤の影響で死んでいた。ランボーの顔からほほ笑みは消えてもう戻ることはない。そこから行先もなく歩いていく、曇り空で吐く息は白く、寒々とした道で、脇を長距離バスが走り去っていく。友も迎えてくれる家もなく、この世界に居場所はどこにもなく、やがて小さな町に流れつく。

みんなが知っているランボーのイメージではない。これは守るべき故国に馴染めず偏見と悪意に追い詰められた帰還兵の話。貴重な青年期を戦闘訓練に費やした彼に戻るべき日常はなかった。
..アメリカンニューシネマの肌触りがある。

保安官は当初は高圧的ではあるんだけれど、ランボーを車に乗せてあげて、後には判事への印象を考えてランボーに髭剃りやシャワーを勧めるなど決して非人間的な男ではなかったし町の人にも声をかけて普段は親しみやすい保安官さんだと思う。「この町では俺が法律だ。」町を守るという気概、保安官気質なんだろうか?そういう人がベトナム帰還者を追いやってしまう空気・差別・気質がつらくて、さみしい。

町を出ろと車を降ろされたランボーが橋を渡り町に戻る際、寂寥とした曲の中一瞬緊張感のあるメロディーか不穏に流れる。今思えば傷つき、孤独で戦争スキル以外に持つものがない彼の最後に残った意地はただ街に戻る事だけだったのかもしれない。

ここまでのランボーの動きは、ゆっくりとただ歩き、小突かれ挑発されても無言で見返すだけ。なのに拘置所で彼に罵声を浴びせ、拷問みたいに扱ったスタッフが事態をエスカレートさせる、無責任に調子に乗った集団というのは醜いと思う、結果戦場の悪夢がランボーに一線を越えさせてしまう、それは怒りというよりも、恐怖ゆえに見えた。ぼんやりと眺めるだけだった彼の目が鋭く変わる。

そこからの動きはとてもしなやかで素早い。地下から駆け上がり玄関を出たときに今度は高らかにメインテーマがなる。バイクを駆って山の中に入るとそこはもうランボーのテリトリーだった。立場は逆転して、保安官たちは待ち伏せされ罠に落とされ狩り立てられる。ホラー映画のような雰囲気で、保安官達は絶望的だ。訓練された男の領域には、町のルールなんて意味を持たない、食物連鎖の向きは逆転する。暖かい防寒着を着た保安官に、Tシャツ一枚でカムフラージュに身を包み泥だらけの顔でランボーはナイフを突きつけ告げる。「いつでもお前を殺せた、街ではお前が法律かもしれないがこの山では俺が法律だ、もう手出しするな。」

・・それでもランボーは一人も殺していない、一名は死んでしまったけれど、半ば事故に近い。ゲリラ戦のスぺシャリストは、素人の市民を手にかけることはなかった。ここで手打ちにすればお互い引きさがれたのかもしれない。トラウトマン大佐が用意した落とし処にのればよかったのにと思う。なのに、仲間の死、保身などが重なり保安官は立ち止まれない。

州軍が到着するけれど、不慣れなパートタイムの兵士がほとんどで士官も彼らを統制できてない。士官と保安官はお互いを知り合いで地元の友達なんだろうか?素人の集団と一人だけのグリーンベレーの対比が鮮烈。地域・国が一体となってランボーを狩り追い立てようとする。事態は戦争状態に入ってしまった。どんな集団にも生き抜くセンス、嗅覚が鋭い奴はいて不安を口にする「俺たちが狩る?違う俺たちが狩られる番だ。」ミッチ、君は正しいよ。

町を戦場に変えたランボーが大佐に思いを吐露する、自分を使い捨てにした戦争は終わっていないと。友を失ったってから時が止まって思えると。“(ランボーは、)神が作ったのではない私が作ったのだ”、画面に登場した際、トラウトマン大佐はこう言い放ち、その考えはどこか父なる神のようで俯瞰的、自分の作ったランボーの戦士としての技量に誇らしげだ。そのランボーの心情に触れたトラウトマンはかける言葉は見つからず、ランボーの傍らに身をかがめる、創造主のしての高見から助けを必要としている絶望に沈む我が子へと降りてきたのだ。その胸の中ランボーは泣く。・・やっと泣けたのかもしれない。子供のように。

連行されるランボーに周囲の視線が刺さる。ここまで悪意を向けられた時彼の居場所は歩き続ける路上しかなかったのかもしれない。テーマ曲の歌詞がランボーの見てきた世界を教えてくれる。振り返りを辺りを見渡すランボー、周囲は敵だらけだ。でも、隣には同じ方向を見ているトラウトマンがいる、国に帰って初めて同じ光景を眺めてくれる人がいる。ランボーの止まった時間が動き出してくれればいいのに。

・・・まあ、でも続編で、過酷な運命が待っているんだけど。
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