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ベニスに死すのろのレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
4.4

1年前から観たかったのですが、なかなかお目にかかれなかった今作。
先日、文学部の図書室にお邪魔したところ、ヴィスコンティの作品がズラリ。「熊座の淡き星影」「夏の嵐」「ベリッシマ」…もう大興奮でした。そして「ベニスに死す」!やっと出会えた。感激です。


ベニスを訪れた作曲家グスタフが美少年タージオの美しさに惚れ込む、という分かりやすい物語なのですが、何せグスタフが乙女すぎる!!!
タージオを目で追いかけ、実際に後を追うグスタフ。そんな彼に微笑みかけるタージオ!タージオの思わせぶりな(?)行動に、「そんな顔をするな。他人にそんな笑顔を見せるな」。グスタフはドギマギしながらつぶやくんです(笑)私のような女子モドキには眩しすぎるぐらい、グスタフはオトメでしたね~(笑)

タージオの美しさには本当に惚れ惚れします。
白い肌に赤い頬、少し愁いを帯びた目元。うん、控えめに言って天使かな?って感じです。タージオだけ常にスポットライトが当たっているような気さえしてきます。(錯覚)そんな少年が現れたら、目を奪われちゃうよね。そりゃあ、新聞読むふりして盗み見したくなりますとも。ゆっくり振り返って微笑まれた日には、ときめきが止まらなくなりますとも。


この物語では、現実と回想を行ったり来たりします。
回想シーンでは、“美”についての議論が繰り広げられる。
グスタフは芸術家の努力によって、美は創り出せると確信している。しかし、作曲家仲間にこう反論されます。
「美は自然に発生するもので、努力とは関係ない。芸術家の自負以前に存在する」
グスタフはタージオとの出会いで、そのことを痛感したのだと思います。


ベニスはお金持ちの避暑地。
着飾ったご婦人方が日傘を手に、優雅におしゃべりを楽しんでいる。つば広帽を被り、日光浴をする若い女性たち、楽しそうに走り回る子どもたち、そしてイチゴを食べるグスタフ。太陽が砂浜と海を照らし、キラキラと輝く。さすがヴィスコンティ。まるで1枚の絵画のようです。

ラストも素敵すぎる。
夕陽に照らされた海とタージオ。
タージオのシルエットがくっきりと浮かび上がります。圧倒的な美を眼前に、その美しさに触れたくて近づきたくて思わず手を伸ばして…。
マーラー交響曲第五番が、優雅で儚く美しい。


私が惹かれたセリフ。
「健康など、全く味気ないものだ。特に魂の健康はね」
うつ病の私にとって、涙が出るほどうれしかった。
ああ、いいんだ、健康じゃなくても生きていける。そう感じて、なんだかとても励まされました。たぶんこのセリフはずっと忘れられない。


これから数日、ヴィスコンティ映画レビューが続きます…
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