カテリーナ

炎628のカテリーナのレビュー・感想・評価

炎628(1985年製作の映画)
4.7
眠れない夜に

想像を絶する体験をしなければ
つるんとした少年の顔に
老人のようなシワが刻まれることはない
数々の悍ましい惨劇を
少年は目撃することになる

1943年、ドイツ軍に占領されていた小さな村 に少年のフリョーラは砂山から銃を掘り起こす 無邪気な笑い声が響く
その様子を咎める村長のまるで呪いのような台詞が不気味
フリョーラは友人同様役に立ちたい一心でパルチザンに入りたいと、嬉々として銃を家に持ち帰り母親から
猛烈に反対される
徴収の為不遜な態度の兵士は家に上がり込んでくる
フリョーラの双子の妹が訳もわからず
兵士の言葉に笑い声をたてるが
ただならぬ母親の剣幕に最後は泣き出す

ドイツの保安警察 と保安部 がドイツ国防軍の前線の後方で「敵性分子」(特にユダヤ人)を銃殺するために組織した部隊である(wikiによる)
アインザッツグルッペンの隊員は
「子供から全てが始まる
生かしてはおけない
共産主義は下等人種に宿る
絶滅させるべきだ」と
このフリョーラの幼い双子も含め
母親や村人も残らず虐殺される運命にあった
この村だけではない
タイトルにもなってる628の村を
村民ごと焼き払うのだ

ペルホード村の
ある納屋に乱暴に村民を押し込めて閉じられた扉の中で蠢く人々
子供や赤ん坊の鳴き声や大人の怒声が
まるで不協和音のように耳に響く
狭い納屋の中で恐怖と息苦さに怯える顔
その中のフリョーラも恐怖で凍りついた
表情で人の波に押される

かつて黒人が奴隷として売られる船の中で
折り重なって運ばれた描写を
読んだ時の息苦しさが甦る

その後納屋は火を放たれ
中の村民は生きながら炎に包まれ焼かれるのだ 折り重なって悶え苦しむ人々の
恐怖と暑さと痛みが
メラメラと音をたてて燃え続ける
オレンジ色の炎が生き物のように納屋を舐め尽くす
絶叫が掻き消されて行く間も アインザッツグルッペンは飽き足らず
笑い声をたてながら銃声を轟かせる

奇跡的に助かったフリョーラは
呆然とその光景を見つめる
彼の精神は破壊され
深く刻まれた皺と共に脳裏に焼き付いた
その記憶はその後もずっと残るのだ
それは生きながらの地獄ではないか
しかも自らが引き起こしてしまった地獄
だとフリョーラは二重の苦しみを背負う
ことになる
戦争さえなければ
村民を虐殺するナチも存在しなかったはずだ それを生んだあの人物さえ

フリョーラは憎しみで膨れ上がった身体で
銃を構え水溜りに浸かるその人物の肖像画に向かって幾度も幾度もひきがねを引き
今迄の憎しみを吐き出す

独ソ戦中のアインザッツグルッペンの虐殺数は85万人から130万人といわれる
大量虐殺によって4分の1の人口が
亡くなっているのだという事実
犠牲になったのはユダヤ人だけではなかったのだ
最もこの世で恐ろしいのは人間だ
この映画を最後まで見てそう思った
カテリーナ

カテリーナ