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ゾンビーノのsleepyのネタバレレビュー・内容・結末

ゾンビーノ(2006年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

案外深いゾンビ・コメディ。笑えました。

ゾンビという存在を1950年代の米の新興タウンを舞台にして、パラレルワールド的に描いたコメディ。ブラックで強烈な諷刺がまぶされている。ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(68年)はまだ終わっていなかったヴェトナム戦争がその根底にあった。本作は架空のゾンビ戦争後、繁栄の50年代の消費社会の到来と、漂白・去勢された当時の家族関係、継承されない戦勝兵士の傷跡、失われた父権を、黒い笑いと少しのペーソスで皮肉る。その大戦の傷を語らない父とそれを過剰に語る父は、それぞれ主人公の少年の父と、隣人の父に呼応する。

面白いのは、そうでありながら本作製作当時の米現在を強烈に皮肉っていること。虚飾の消費社会、テクノロジーと一部の巨大コングロマリットに依存する大衆と銃社会。なんでもかんでも警察も教育も(架空の)ゾムコン社が牛耳っているという。また、2019年から見ると排他主義と国家間格差への皮肉を図らずも感じてしまう。ゾンビ作品は代々、世相への皮肉を含んだものだったらしいけれど。こういう核を持ちながらも。ただ流れるように観ているだけで笑わせそしてほろりとさせる。
原色鮮やかなサバービアの街並み・緑豊かな自然と、グレーのゾンビとの対比が鮮やか。このサバービアは、スピルバーグ作品やバートン作品のそれを思い出させる。

少年の母親役のキャリー・アン・モスが最初は嫌な母として登場するが、徐々に「購入」(?レンタル?)したゾンビの「ファイド」との生活により変化し、強烈な母性を発揮して魅力的。ファイド役のコノリーの悲哀(?)。そしていつも権威的で嫌味な役ばかりのヘンリー・ツァーニーの顛末には笑ってしまう。それと反対隣のティム・ブレイク・ネルソン(元ゾムコン社員)が最初はヤバい人間に見えるけれど・・いろいろあって・・人間的ですね。いいキャラです。

流血、グロ・シーンがあり、多くの人命とゾンビが失われますが、この作風の中では気にならない。作り手の創意工夫と、(オマージュとしての)オリジナリティを感じます。ゾンビ映画?と敬遠せずに構えずに観て欲しい一作。思わず胸アツになるシーンも盛り込まれていて楽しめます。笑ってください。人を選ぶかも知れませんが。
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