ものすごくおかしいのに、痛くて苦しくてたまらなくもある、いい青春映画だった。
華やかで尖っているように見えるラッパーも、多くの実情はこんな感じなのかもしれない。
演奏を離れれば、マイティーは実家の農家を手伝う一青年。
トムはおっぱいパブの店員としてこきつかわれる日々。
主役のイックにいたってはニートだ。
それでも彼らはラップをしている時は、自分が最高に格好いいと信じている。
いや、信じたいと必死に思っている。
ビッグになってやる、と自分に言い聞かせ続けている。
でも、現実はあまりにも残酷だ。
市民の集いでは、いかに自分たちが無力な人間であるかを突きつけられる。
久しぶりに再会した訳ありの女友達・千夏からは「働け!」と一蹴される。
ヤンキーに絡まれて、逃げ出そうとしてボコボコにされてしまったりもする。
格好つけているのに、まったく格好よくいられない。
その様子が見ていてたまらなくおかしい。
アホぶり全開で繰り広げられる会話にも思わずクスッとされっぱなしだった。
でも、同時に彼らの姿は悲哀にも満ちていて、青春の痛みを思いきり感じさせてくれる。
じつはイックらをバカにしているメンバーのケンらに、千夏のことでぶつかっていく時。
去っていく千夏の元に駆け付けて自分らの曲のCDを無理やり押し付ける時。
そして、イックとトムがラップバトルを繰り広げるラストシーン。
最後は胸がたまらなく苦しくなって、思わず涙がこぼれてしまった。
「それでもラップしてやるんだよ!」と心から叫ぶかのようなシーンに熱くならない人はいないだろう。
それがたとえハッピーエンドじゃなかったとしても、素晴らしい青春だと思う。