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刑事マルティン・ベックのHKのレビュー・感想・評価

刑事マルティン・ベック(1976年製作の映画)
4.5
マイ・シューヴァルとペール・ヴァールの合作の警察小説を、『短くも美しく燃え』などのボー・ウィデルベルイ監督によるスウェーデン製刑事アクション映画。キャストはカルル・グスタフ・リンドステッド、スヴェン・ヴォルテル、トーマス・ヘルベイなどなど

ある夜、ストックホルムの病院に入院中の警部が何者かに銃剣で斬り殺されるという事件が発生した。刑事たちは取り調べをしていくうちに、殺された警部が悪名高い人間で、犯人の男は彼のせいで妻を殺された元警官であるということを知る。果たしてどうなるのか。

そんなに期待せずに見たら物凄い面白かった映画作品。『刑事マルティンベック』の『唾棄すべき男』が原作らしい。同原作の映画で『マシンガンパニック』というハリウッド映画もあるがそちらも見てみたい。

開幕早々、入院中の警部が殺されるシークエンスから始まるのだが、入院中のベッドの暗闇の間から目が覗かれ、間髪入れずに斬殺、そのままリアルな血が大量にどくどくと出てくるのが溜まらない。

監督は今回、ひたすら取り調べのシークエンスなども犯罪や逮捕までの作戦実行シークエンスも全てリアルにするということを指針として撮っていたようで、その様子がひたすら映画から溢れていた。

日本も同じように刑事ドラマが盛んですし、同じ題材で映画化もできるとは思いますが、もし今の日本がこんなの撮ったら前述した粗筋を見れば分かる通り「復讐に燃える犯人」とかの情念とかにフォーカスを置いてしまうのかもしれません。

しかし、この映画は違います。あくまでスウェーデン、北欧らしく滅茶苦茶淡々としかし小刻みにテンポよく物語後半になると進んでいきます。

前半はちょっと取り調べシークエンスが会話ばかりなので人によってはぐだってしまうかもしれません。ですが個人的にはあそこの字幕もなんか日本の刑事ドラマらしい熱い男たちの会話のようでとても見応えがあった。

日本人がやると熱さが全面に出てくどくなってしまうのですが、北欧の人がやるとそこに北欧的な静けさとか無表情が入ることによって相殺されて丁度いい塩梅になるんですよね。

そして、何よりも凄かったのは犯人の犯行シーン。原題が「屋上の男」というように、とある高層ビルの屋上部分で狙撃銃とマシンガン片手に地上にいる人間にぶっ放すシーンが爽快すぎます。あそこからのカメラを旋回させての大立ち回りが素晴らしかったですね。

それでもあくまで作戦実行まで、刑事たちの上層部の馬鹿な作戦とかも含めて、全てのシークエンスを物凄い冷淡にかっこよく描いているんですよね。なんか、押井守作品とか、シンゴジラでも見ている感覚で後半は見てしまいましたよ。

特にヘリコプター墜落シーンはゲリラ撮影していて本当に落としているのでド迫力でしたね。

それでいて、最後も実に潔い。日本だったらあの後、取り調べシーンで犯人がどうしてこんな犯行をしたのかというような、重々しくてテンポがだれるシークエンスもばっさりカットして、『短くも美しく燃え』と同じようにクローズアップで終わるという…

そうなんですよ。犯人逮捕までのシークエンスまでのアクションだけでもこれだけ面白いのが撮れるんですよね。だからその面白い部分だけで構成されてばっさり終わる所とかお見事だと思いました。

マルティンベックを演じた男の人は元コメディアンらしいですね。ちょっと剽軽な所も目立っていて、ベックさんに合っていて良かったです。

一言でいえば、「暑苦しさをどこかに置き忘れた太陽にほえろ!」という所でしょうか。すごい見れて良かったと思います。お勧めです。

序盤のガキのうんこもリアル。  
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