クシーくん

炎の城のクシーくんのレビュー・感想・評価

炎の城(1960年製作の映画)
3.5
シェイクスピアのハムレットを戦国時代の架空の地、王見城に舞台を移した翻案物。

黒澤明の「悪い奴ほどよく眠る」はその構図にハムレットの影響が見られるとアンジェイ・ワイダに「示唆」された程度の作品なのに対して、こちらはハムレットのストーリーにより忠実に作られている。

ただし、クローディアスこと大河内傳次郎は野心家の好色親爺になっているし、ハムレットこと大川橋蔵は領民に慕われる正義漢のヒューマニストに変更されている。原作に忠実であることが必ずしも作品の魅力に通ずる訳ではなく、義務でもない。寧ろ自由に作れる所に良さがあるとは思いつつも、ハムレットは悪対正義の二項対立が魅力のジャンルではないので、この作品では余計な要素となって鬱陶しく感じられた。

ハムレットは復讐対象ではないポローニアス誤殺に際して「ねずみかな」と言い放ち斬り刻んで便所に捨てるような男だ。狂気と正気の境目に立って苦悩する人物というよりは大義と恋と義理人情に悩む浪花節ではシェイクスピアも形無しだ。何よりラストシーンの軽薄さは頂けない。
変な所では忠実なんだけど妙なヒューマニズムのせいで軸がぶれてる感じ。
ただ娯楽作品として作られた場合はある程度仕方がないのかな。

オフィーリアの入水や旅役者の行りは日本風にアレンジされて中々気迫の感じられる良シーンに仕上がっていたと思う。大川橋蔵が大河内傳次郎に迫る姿は正にゴジラ(?)
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