えいがうるふ

灼熱の魂のえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

灼熱の魂(2010年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

母ちゃんの人生のハードモードっぷりが想像の斜め上だった。
反戦映画的な視点から言えば内戦下の国情に巻き込まれた一般市民のあまりにドラスティックな半生を描いた作品なのは分かるが、戦乱の被害者という「弱者」として描くには母親のキャラクターがあまりに突出しているため、どうしてもそちらに気持ちが持っていかれる。

過酷な運命との孤独な闘いの果てについに平和な日常を手に入れた強い人間が、なぜ墓場まで持っていくべき秘密をあえて明かすことにしたのか?
壮絶な人生を生き抜く強靭さとは裏腹の人の心の脆さと、何者として生き死んでいくかを自ら選ぼうとする究極の終活の一部始終を見せられた気がして、釈然としないまま考えさせられる作品だった。

彼女が、今さら知らされても関係者の誰も幸せになれないどころか、下手したら我が子が自殺したくなるかもしれないほどの話をわざわざ回りくどい遺言で伝えたのは何故なのか。

もちろん、あのプールでの過去との遭遇が彼女を打ちのめしその後の行動のきっかけになったことは間違いない。

彼女が本当に強い人間ならば、そして母として子を思う気持ちが彼女の原動力だったならば、最後まで一人で全てを背負い胸のうちに飲み込んだまま死んでいくことを選ぶだろう。
実は彼女はそこまで強くもなく、過酷な運命に翻弄されつつも何とか生き抜いただけの普通の人間で、平和な生活に油断していた心の隙間にふいに決して消えない過去を突きつけられ、ギリギリのところで耐えていた心が決壊してしまったのだろうか?

私の解釈ではむしろ、彼女はあの瞬間に、運命に翻弄された悲劇のヒロインとして人知れず死んで行くよりも、一人の人間として主体的に生きた証を残したい、知ってほしいという根源的な欲求に目覚めたのではないかと思う。だからこそ、謎の多いミステリアスな母ではなく、確固たる信念を持った一人の勇気ある活動家としてその名を墓碑に刻まれることを望んだのではなかったか。

遺言に書かれていた「共にいることが何より大切」だとか「怒りの連鎖を断ち切る」といった言葉は、まさに我が身の凄惨な運命すら乗り越える理想と信念に燃える灼熱の魂の持ち主ならではの言葉だと思った。

真実を伝えた上でそれでも母として我が子を愛してきたことを本人達に伝えたかったのは分かる。
しかし、その強い愛の告白はある意味では親が受け入れた運命をお前たちも受け入れ認めよというエゴの押し付けでもある。断ち切れていたはずの鎖を自らガッツリ繋げちゃってるし・・

見方を変えれば、自分自身の悲惨な人生を前向きに肯定して成仏するために、まだ人生半ばの子どもたちに重すぎる呪いをかけるだけかけて死んでいくとんでもない毒親ともいえるが、彼女自身が自殺をせずにこれまで生き抜いて女手一つで子供たちを育て上げたのもその強い信念があったからこそとも思え、なんともやりきれない話だった。
そのやりきれなさに拍車をかけるトム・ヨークの歌声が絶妙。