あなぐらむ

ナイト&デイのあなぐらむのレビュー・感想・評価

ナイト&デイ(2010年製作の映画)
4.4
監督がジェームズ・マンゴールドだと知り、面白いに違いない、と。
フィルモグラフィに「3時10分、決断の時」「ウォーク・ザ・ライン」や「コップランド」とある実力派である。映画職人である。
前作の西部劇から一転して、今回は現代のスパイ映画。さてどう捌いてくれますか。

結果本作は、とても愉快痛快で満足度も高いが、今時の批評媒体が喜びそうな映画ではない。
どちらかというと「スパイコメディ」であり「ラブストーリー」である。デートムービーだ。
パンフレットなどには本作は往年の"スクリューボールコメディ"のリブートである、的なことが書いてあった。
前作「3時10分、決断の時」の西部劇に続いて、マンゴールド監督は古きよきハリウッド映画のジャンルを再生させようとしていると言える。
それは現状のハリウッドのネタ切れ感や、安易なコミック原作やゲームの映画化に対するアンチテーゼかもしれない。
このホンが原作を持たない、オリジナルであるのも良いところだ。足元の掘り起こし作業というのは必要だと思う。

「スパイ映画」というジャンルがジェイソン・ボーンシリーズ以降(というかポール・グリーングラスのせいで)、リアリズム重視に傾斜してしまったことに対する揺り戻し、みたいな側面も本作にはある。
今や007さえも自らの存在に悩むご時世だが、本作で描かれるスパイ世界は、そういった現代的なリアリズム様式をベースにしながらも、基本は往年の量産された007映画のような「世界を股にかけるスパイの非日常なロマン(笑)世界」である。
だからトム・クルーズに付き合わされるキャメロン・ディアスは眠ってる間に南の島へ、寒い国に向かう列車の中に、何の苦も無く移動してしまう。「そういう世界なんよ、よろしく」てな感じの演出も微笑ましい。
当時トム・クルーズがコアなスパイ映画である「ソルト(主役をアンジーに代えて製作された)」を蹴ってこっちを演ったっていうのは、ある意味とても納得が行くんだな。彼はイーサン・ハントでもあるし。

とは言え、ぬるい映画かというとそうではなく、アクションシーンは本当にすばらしくメリハリがある。
冒頭の飛行機内でのバトルにしても、ボストンの高速道路でのカーチェイス~ガンファイトにしても、押さえるところはきっちり押さえてある。
何しろトム・クルーズは自分で出来る限りのスタントをやっちゃってるので、それを観るだけでも木戸銭分はある。ユニオンが厳しいハリウッドで、10メートル弱の高さを命綱だけでダイブするのはこの人ぐらいでしょう。
また、キャメロン・ディアスも自らGTOをスピンターンさせるシーン(カメラアングル的に絶対嘘がつけない)があったりと、チャリ・エンで見せたアクションヒロインとしてのスキルの高さを見せつける。
こればっかり書いてる気がするが「ほんとにやってる」事が、CGを活かす上でも重要なんだと思う。

マンゴールド監督は「17歳のカルテ」でアンジーをメジャーにした人でもあるので、役者を活かすのは相当に巧い。
本作のキャメロン・ディアス、トム・クルーズとも非常に魅力的に、そして自分の役柄を楽しそうに演じている。抜群のパツキンアメリカンガールぶり。
「3時10分」でも思ったけど、役者が光ってこそ映画、ですわな。

観終わった後、男はトム・クルーズに、女はキャメロン・ディアスになった気分になれて、おまけに世界も旅した気分が味わえる。これこそ本当の意味での(アトラクションじゃない)映画の醍醐味なんじゃないか。
3D、4DXという"映画のアトラクション化"には否定的な立場の俺としては、こういったオールドスタイルだがしっかりした作りの娯楽映画こそ、応援したい。
(ガル・ガドットが出てたのは忘れてた)