神戸典

英国王のスピーチの神戸典のレビュー・感想・評価

英国王のスピーチ(2010年製作の映画)
4.0
イギリス国王の次男として生まれたヨークは幼い頃から吃音症により、言葉がうまく出てこなかった。
どんな医者に診てもらってもなかなか良くならない。そんな時、ある街の年老いた医者を尋ねる。
その医者はこれまでの医者とは異なり、王室が患者となっても自分の家に受診に来るようにさせたり、王子をバーディと家族しか呼ばない愛称で呼んだ。
患者と医者が対等な関係で絆を作ることが克服の一歩であると考えていた。

徐々にだが言葉が出てくるようになってきた
頃、国王のジョージ5世がこの世を去る。
後継は女たらしの兄であった。
しかし、周りの不安の通りに兄は公務を怠り、離婚歴のある女性と結婚するために自ら王位を返上する。

兄は確かに王家の者として規律に欠ける性格である。
しかし、この兄を非難できるかどうかと言われると難しい。
幼い頃から王室に生まれたことにより親の敷いたレールの上を歩むしかないという運命において、おそらくこの女性との出逢いが彼を普通の民衆のような気持ちでいられる空間だったのだろう。
国民が何不自由ない王室に憧れるように、また兄も自由に生きられる民衆に憧れを抱いていたのだ。

国王となったヨークが国民にスピーチする場面で初めこそ言葉が詰まったものの、ライオネルが向かい合ってゆっくりと導くように徐々に言葉が出てきて、気づけば手元の資料もライオネルも見ずにすらすらと言葉が出ていた。
この時から、ヨークは本当の陛下となったのだ。そしてスピーチを終えたヨークにライオネルが初めて閣下と言った。
ライオネルが初めてバーティではなく陛下と言ったこの言動が、名実ともにヨークがイギリス国の陛下として熟した事を意味している。ライオネルがこれまで友情を育んできたバーティが、尊敬すべき立場の人間に見事成長し、敬意を表して陛下と述べたのだ。

立場が全く違う二人が本気でぶつかり合うことで、自分の気持ちをさらけ出し、それはある意味国王家の会社のような親子関係よりも家族のような存在になったのかもしれない。
二人の友情、そして尊敬、敬意を紳士的に描いた見事な作品だ。
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