神戸典

風をつかまえた少年の神戸典のネタバレレビュー・内容・結末

風をつかまえた少年(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

『それでも夜は明ける』で主演を努めたキウェテル・イジョフォー初監督作品

2001年アフリカの貧困国マラウイが舞台。
当時襲った干ばつにより人々は毎日を生きるのがぎりぎりで、14歳のウィリアムも学費を払えずにいた。
賢く家族を大事にするウィリアムはラジオの修理や配線を組み合わせる事で電力を生み出す知識を持っていた。


前半の青年たちが集まりラジオでサッカーの中継を楽しむシーンは印象に残った。アメリカの同時多発テロのニュースが流れるが誰一人気にもせずサッカーの中継が流れるのを懇願する。
当時世界の大ニュースとなった事件でさえも、この貧困国マラウイで毎日を生きる者たちにとっては一切関係のない事であり、それは世界とこの青年たちの世界がまるで分断されているかのように無関心の溝が深く大きくまたがっていることを表していた。
さらに土地を奪いたばこ製造を目的にお金をちらつかせる権力者の進行が重なる。

生きる為にお金が必要な村人の中にはこの話を受けるものが多くいた。
プライドと現実を天稟にかけられた村人は当時の状況下で長期的な利益を考えるのは難しかったことは言うまでもない。

族長が政府の人間から暴力を受けるシーンでは裏では力による制圧が行われているにもかかわらず表では民主主義と謳った独立政権のような流れが生まれており、それにすら気付くことの出来ない村人の無知が露呈した。

ついに村人同士による食糧の奪い合いが始まり、村を出ようとするウィリアムの姉に対して母親が説得するシーンで放った「飢え死なんかさせない。食料がなくなったら私の腕を切って食べさせる。」というセリフに心を打たれた。
ただ一つのランプの光だけが照らす薄暗い中、母親の眼差しは白目が光りはっきりとそして力強く目の前を見つめ、子供を守るという母の強い信念が感じられた。


ウィリアムを演じたマックスウェル・シンバの静かで悲しみのある表情と聡明な瞳が見事役にハマっていた。
そして母親を演じたアイサ・マイガの強い信念と夫を立てながらも家族を守ることを第一に考える表情や言葉一つ一つがとても強いメッセージとなって伝わってきた。


初監督で素晴らしい作品を作り出したキウェテル・イジョフォーは演者としての自らの強みもしっかりと理解している。
『死の谷間』でもそうだったが、一見落ち着いた大人しい男だが時に荒々しく凶暴性を秘める役柄が見事だった。
そして父親という立場であくまでも主役を立てる演技があるからこそ少年の純粋さや家族の絆に深みが生まれていた。
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