かじられる

ダウン・バイ・ローのかじられるのレビュー・感想・評価

ダウン・バイ・ロー(1986年製作の映画)
4.2
ただ仕事に追われる毎日は食事と睡眠となけなしの甘美を挟みながら、日常さえ非日常に置き換えてしまう。娑婆が自宅なのか、会社が娑婆なのか、開き直りの社交モードがデフォなのか、ベッドぐったりがホームなのか、もはや見分けもつかなくなり、気がつけばもう春なのに間違えて手帳に3月と書いたりしてる。

奇跡のように桜は咲く時を知り、今年も一年が巡るのに、わたしはどこに立っているのか。別に外に出ようと思えば出られるし、一見自由を満喫しているのに、案外ここは狭い牢屋の中かもね、ニュースで知る罪人と一緒にぐるぐる回って、くだらないフレーズを唱和しているのかもね。逃げてるつもりが、都合の良いルートを取ってるだけかもね。

誰も何も根幹は変わりはしないわ。右と信じたら、そっちは右だし、左と教えられたら、そっちは左。とても単純で明快なことを、生きることはただひたすらややこしくしていく。モノも場所も人もひとひらの感傷を挟み、別れと出会いを繰り返し、交わされた言葉もそのほとんどは記憶の彼方に貯蔵され、気分や射し込んだ光や、意外な発見なんかで、たまたま視界に焼きついた景色だけが、音もなく里程標に居座り、未完成のわたしを補完していく。

デフラグしたい気持ちとこのままでいいや、なる突き放しが混在しているうちはまだマシだと慰めながら、逃げ道は案外そこにある!指摘に魅惑の震えを隠せずにいるよ。
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