晴れない空の降らない雨

時をかける少女の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

時をかける少女(2006年製作の映画)
4.6
 細田守の独立第一作。わずか13館での公開から口コミで広まり、ロングランに。
 改めてみると、タイムリープを利用した作画のリサイクルをはじめ、明らかにカネがかかっていない。ところが、節制という理由もいくぶんか含まれていたであろう演出が、本作にはプラスに寄与している。
 海とか山とか盆踊りとか行かないのにすごく夏っぽい。貞本のシンプルなキャラデザと細田監督の特長である影なし作画の相性がそもそもよいのだけれど、その省力気味のキャラクターが白いシャツを着て、夏空の青や入道雲の白や草木の緑を背景に、やはりシンプルなだだっ広い空間(グラウンドや土手)に置かれる。それがこの作品をこんなにも夏らしくしていると思われる。
 
 それにもちろん疾走感。坂と自転車。自転車がなくても走ってばかりの主人公。跳躍と落下の運動も加わる(真琴だけでなく、ボール、桃、プリント等)。真琴のこのエネルギッシュな性格と、彼女が牽引する物語が、夏という季節にピッタリだし、観ていて気持ちよい。しかもこのカラッとした明るさが、過去の『時かけ』映像化作品との差別化としても成功している。(ちなみに原作既読者と過去の映像化の既視聴者にはちょっとしたサプライズがあるが、さらに時の流れを感じさせる意味合いも込められているだろう。)
 もちろん元気なだけでないが、「取り返しのつかない時間」の切なさは最後までとっておかれているのだ。それこそ終始「駆ける」ストーリーだからこそ、終盤の時間が停止したシークエンスの無機質な雰囲気がつよく印象に残るし、逆に、その後ふたたび最後に真琴が疾走する長いシーンが生きる。
 最後の疾走は、タイムリープを使わない=今を生きることを伝えるために、あれだけ長く描写されている。今度こそ能力を使い果たし、また不可逆の時間を生きる真琴に、友達は「前を見て走れよ」と言い、好きな人は「飛び出して怪我すんなよ。行動する前にもっと考えろよな」とアドバイスする。作品と同じくらいシンプルなメッセージ。こういう作品を讃えるのに多くの言葉は必要なかろう。本作のような気持ちいいアニメがもっと観られることを望むばかりである。

『君の名は。』で三葉が盛大に転ぶところは、やはり本作へのオマージュだろうか。