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散歩する惑星のtetsuのレビュー・感想・評価

散歩する惑星(2000年製作の映画)
3.8
最新作の予習で鑑賞。


[あらすじ]

奇才ロイ・アンダーソン監督による"リビング・トリロジー"の1作目。1シーン1カットで切り取られていく様々な人間模様。独特な色調と音楽で紡がれていく不思議な群像劇。


[リビングトリロジーとは]

『散歩する惑星』は、ロイ・アンダーソン監督による異色シリーズ"リビング・トリロジー"の第1作目。

本作から始まる3作品は物語上の繋がりはないものの、作風が通じており、以下の部分で共通点が存在する。

・白塗りの人々
・1シーン1カット
・固定カメラでの撮影(稀に移動する。)
・シュールorブラックな笑い
・群像劇
・哲学的なセリフ


[感想]

世間の評価が振るわず、失敗作とみなされた前作『ギリアップ』から25年の時を経て、監督が製作した長編第3作。

個人的なお気に入りである次作と比べると、過去作と同じく陰鬱な世界観が気になるものの、ひたすら考え抜かれた画作りが楽しい作品。
(『ギリアップ』のラストカットにも通ずるが、列車と駅のカットには初期映画『ラ・シオタ駅への列車の到着』を想起させられる。)

実際の詩を引用したという言葉選びは哲学的すぎて、よく分からないものの、後半の「慈しむべきは……」から始まる一連のセリフには、本作のメッセージやアンダーソン監督が一貫して伝えようとしている永遠のテーマが滲み出ているような気もした。

また、「キリストの磔刑」「終末論」「免罪符」といった宗教的要素も印象的で、これらの内容に造詣が深ければ、より楽しめる映画なのかもしれないと思った。


[アリ・アスター監督の原点]

最新作『ホモ・サピエンスの涙』の宣伝において、監督を敬愛する人物として挙げられていた『ミッドサマー』の監督・アリ・アスターさん。

正直、その触れ込みには、全く思い当たる節がなかったものの、本作を観ると納得。
なんと、劇中には『ミッドサマー』に登場した生贄の儀式がそっくりそのまま登場。
(突き詰めれば、スウェーデン画家の作品がモデルのようだけれど。)

よくよく考えてみると、ロイ・アンダーソン監督が一貫して描いている「漠然とした不安」という要素は、アリ・アスター監督作品にも通ずるものだし、「不快感」を醸し出す不気味な展開の数々はロイ・アンダーソン監督作品が原点といえるのかもしれない。

独特な作風から、最新作が公開されるたびに賛否両論を巻き起こすロイ・アンダーソン監督の作品。

しかし、本当に多くの人から評価されるようになるには、数年後、その影響を受けた作品が注目されるようになってからなのかぁとも思った。


[おわりに]

時折映し出される悪夢のような描写や明確な物語が提示されない作風から、賛否両論が分かれそうな本作。

個人的には、ダークな要素が極力控えられた次作『愛おしき隣人』がお気に入りなので、そちらをオススメしたいところですが、逆に暗い世界観が好きな人や監督の独特な作風を体験してみたい方にとっては、見て損はない一作なのかもしれません。


参考

解説 <『散歩する惑星』
http://www.bitters.co.jp/sanpo/kaisetu.html 
(公式の解説ページ)

冬至の生贄 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%AC%E8%87%B3%E3%81%AE%E7%94%9F%E8%B4%84
(こちらが、本作や『ミッドサマー』の原点となったとされるスウェーデン画家の作品。)
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