野

HANA-BIの野のネタバレレビュー・内容・結末

HANA-BI(1997年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ソナチネを観た後であるから、ソナチネに霞むだろうと思っていたがそんなことはなかった。
HANA-BIとソナチネは作品のベクトルは同じなのだろうけどテイストが異なっていたのでソナチネと比べることはできない。どちらも良かった。

この映画のストーリーは多視点で同時進行していく。
西さんとその妻とのレモン哀歌のようなラブロマンス。
西さんがヤクザに取り立てられ、その都度返り討ちに合わす暴力性。
下半身付随の素人絵描き。
しかし、この全てが必要であったと思わざるを得ない程の映画の全体性をこの3シーンが組み合わさり3シーン以上に醸し出す。
これは北野監督のバランス感覚の良さ故になし得た技であろう。
余命の短い妻と過ごすため、邪魔な人を躊躇なく排除していく。素人絵描きの猟奇的な絵が突発にモンタージュされる。全てが関係しあって、映画の全体性を作っている。引いた目の調和とミクロな調和どちらもこだわり抜かれた秀逸なストーリーの構成である。
北野武は画面構成も上手い。色使いも上手い。
時折、美しい海、緑が差し込まれるのだが、その風景がさながら東山魁夷の絵画のような群青のような緑青のような絶妙な色で静謐な雰囲気を醸し出しているのである。その贅沢な画面を狂乱の後に持ってくるのであるから、その急激な甘美な静寂に驚きカタルシスを引き起こす。
この作品は奥さんを最も幸せに死なせるためのストーリーであったように思う。奥さんに不器用に至れり尽くせりで想いを寄せて、花火をし、雪を見て、トランプをして、最後に二人が海で飽和しきった時に心中する。悲しく美しいストーリーである。
私は感覚的な物語が好きである。
ソナチネに比べてHANA-BIは理性的であったが、それはそれで良いと思えるような作品だった。
野