せーじ

HANA-BIのせーじのレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
4.3
2018年2月25日、テレビ東京の特別番組で鑑賞。
恥ずかしながら本作は初見、北野武監督作品をきちんと鑑賞するのも初めてとなる。これも「後学の為に観ておこうじゃないかシリーズ」ということになるのかな。

重苦しい…。
絶望するような現実に立たされた時に、人には何が出来るのか。
そこから、人それぞれの生き方がわかれてしまうのは、いったい何が違っていたというのか。
そのようなことを淡々と、抑揚の効いた語り口で静かに語ろうとしているように自分には感じられた。
ただし、北野監督が得意としている、シュールでふざけた描写と、ハードさが身に染みて伝わってくる暴力描写が、全編にわたって効果的にちりばめられているので、作品そのもののリアリティラインはかなり低い。だからこそ冒頭から「こんな映画にまじになっちゃってどうすんの」とでも言わんばかりに外し演出(たとえば洗車とかキャッチボールとか)を放り込んでいるのだろうから、この作品を「不自然だ、こんなのはありえない」と言い切るのはちょっと違うのだろう。「これくらいの感覚で観てくれ」という、ある意味でのフィクショナルで寓話的な語り口は、うまく機能しているように感じられた。

西と堀部、ふたりを分けたものはなんだったのだろうか。
そのきっかけは、ほんの僅かで些細なことに過ぎない。しかしそれが取り返しのつかない悲劇へとつながり、ふたりは違う道を歩むことになってしまう訳だが、だからといってふたりの生き方は比べられるものではないし、どちらが逆のような立場になったとしても不思議ではないだろうと自分は感じた。ましてやどちらが幸福でどちらが不幸だったかなんて、簡単に言いきれてしまえるようなものではないと思う。
だからこそ観た後に、重苦しい気持ちが残る作品になっているのだと自分は考える。物語のリアリティラインを越えて、無意識のうちに「もしも自分が、これに近い"絶望"に出くわしてしまったらどうするだろう」と考えさせるように作られているのだから、この"重苦しさ"からは逃れられない。西のような人間性も、堀部のような人間性も、対立するものではなく紙一重でどこかに兼ね備えているのが、人間の姿であり実像なのだ。つくづく人の生き方とは、さりげないようでずっしりとした「選ばなければならないけれども、選んだら取り返しがつかない」という緊張感が、常に横たわっているのだよなぁと思わされてしまう。

ただ…。
基本的に主人公がほとんど黙して語らない人物なので、一部の周囲の人間がどうしても説明的なセリフを言う構造になってしまっているのはちょっとだけ違和感があった。というよりも全体的に「抑えた演出」があまりさりげなく無い。上で述べたようなことを描くために、全力で真面目に「抑えた演出」を「演出」しようとしているのがはっきりと見えてしまって、意外さやフレッシュさを見出すことができなかったのが残念だった。もっとも、そこに乗れるか乗れないかは、人それぞれ微妙なところなのかもしれないが。

…などというひねくれたことを思うのは、たぶん自分だけだと思います。
ストーリーそのものは、重厚で考えさせられる人間ドラマでしたし、音楽が素晴らしい、今観ても色あせない傑作だと思いました。北野映画につきもののバイオレンス描写も、そこまでえげつなくは描かれていないと思います。
個人的に一番好きだったのは、大杉漣さんが演じる堀部が、中盤、花屋で花を見つめるシーンからのくだり。イマジネーションが文字通り"開花"する瞬間に、思わず目頭が熱くなってしまいました。
心から感謝をお伝えしたい。
大好きな俳優のひとりでした。
ありがとうございました。
せーじ

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