ゆうすけ

ミツバチのささやきのゆうすけのネタバレレビュー・内容・結末

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

スペインの寡作の映画監督ビクトル・エリセ。長編デビュー作でありながら、以降の映画業界に多くの影響を与え、宮崎駿『となりのトトロ』(1988)や、ギレルモ・デル・トロ『パンズ・ラビリンス』(2006)もその好例です。

セリフの数が少なく映像のみで語る本作は、アート映画としての側面が大きく、一筋縄では理解ができません。
また、この多くを語らない作風も厄介ではありますが、隠されたメッセージというのも当時のスペインの歴史的背景を把握していなければ到底気がつけないのは勿論、暗喩的なモチーフを理解するのにも一定の教養レベルを求められるという、完全に映画マニア向けの作品であると言えるでしょう。

自分も観ている間は、ただ映像表現の美麗さと、主人公アナの名演、そしてそこはかとなく漂い続けている不穏な空気を感じているばかりで、この映画の名作たる所以が何かはとんと見当もつかなかったのです。

まずは歴史的背景から。本作の舞台となっているのは1940年のスペイン。共和国政府と反乱軍によるスペイン内戦が、反乱軍を率いたフランシスコ・フランコの実権掌握によって終結して1年、という時代です。フランコは、いわゆる独裁政治を樹立します。
本作に登場する人物たちは、おそらく政府側の立場だったと思われますが、ずっとビクビクしているように感じるのは、そういう背景があったからです。そして、アナが出会う軍人は政府側の残党で、フランコ政権によって抹殺されてしまったというわけです。

このように実際にはフランコ政権の独裁政治を批判している作品ではありますが、1973年の公開当時も彼の政権は続いていました。フランコ政権は、あらゆる作品において検閲をしていましたが、政治批判の映画など検閲の目を免れるわけがない、ということで上記のようなメッセージは本当にわかりづらくしているわけです。なので、観た人が一度で理解できるはずもないのです。

養蜂家であるフェルナンド。ミツバチの習性を、圧政における国民の象徴として登場させ、彼らの家には蜂の巣と同じハニカム構造の窓が嵌められています。

本作は『フランケンシュタイン』(1931)が上映されるところから始まります。『フランケンシュタイン』がモチーフとなっているのは、『怪物』(2023)も記憶に新しいです。

うまいなあと思ったのは、毒キノコを踏み潰す父を見たアナが、同じように軍人を殺したのではないかと勘違いするところ。あんな感じで殺したんじゃないかと。ただ、あのオルゴール付きの懐中時計を父が持っていた、という状況証拠もあるわけなので勘違いするのも当然ですが。
ゆうすけ

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