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紅の翼のFilmomoのレビュー・感想・評価

紅の翼(1954年製作の映画)
4.2
①本作はまるで日活アクションのような邦題がついているが、多くの登場人物の人間群像を描きながら、航空事故に直面した乗員と乗客を描く「空のグランド・ホテル」である。ジョン・ウェインの製作会社バトジャック・プロの製作で、デューク自身は百戦錬磨のベテラン副操縦士という役どころ。製作年が1954年とあって、飛行機機内の様子や描写は今では考えられないくらいおおらかである。(機内喫煙はもとより、国内線とはいえ、ピストルをポケットに忍ばせて機内に持ち込んでいる者がいるとか、誰一人シートベルトもせずに機体の重量を減らすため、デッキドアを開けて荷物を投げ捨てるとか、コックピットの扉に鍵がないとか、高度を降下中もベルトせずお喋りしているとか)②序盤で乗客それぞれの人生行路が次々と紹介されてゆく。過去はフラッシュバック、現在は機内でのカット割りとなる。この群像模様が人によっては喜劇であり、また別の人は悲劇であり、というところが面白い。特に子供をベビーシッターに預け、何年ぶりかで旅行に来ていた夫婦のエピソードが面白い。4年間倹約して夫婦で旅に出る計画を立て、1日10ドルで子守を雇い、意気揚々と荷造りしたら船会社のストに遭い、荷物を減らすことになりつつも飛行機に乗り、夢の国に着いたら予算に合ったホテルは予約がバッティングしており、同姓の夫婦に取られ、旅程を短縮して予算オーバーのホテルにチェックイン。夜会服に身を包み、ダンス会場へ向かう階段で奥さんが足をくじき、ダンスは断念するもビーチへ行くと3日連続で雨。そこでいかがわしい、キス魔の夫婦客の餌食になり、その夫婦から身を隠してホテルから遠く離れたレストランで食事をするはめに。最終日に晴天に恵まれ、ヤケクソで延々日焼けをしたら妻は肩に夫は背中に重度の日焼け。この夫婦がこれを笑い話として隣の夫婦に語って聞かせる場面がなんとも哀しいやらおかしいやらで面白かった。③ディテール描写はともあれ、それぞれの人物が活きている。事故直前からずっと寝ている少年の存在もいいし、老けた自分を否定していたミスコンの元勝者が自分を受け入れ、化粧を落とす場面もいい(彼女は6年前の自分の写真を見て求愛してきた文通相手の男の元へ行く途中だった)。③航空士の計算ミスなども見つかり、手を尽くしたものの八方ふさがりになってから、百戦錬磨のデュークが腰を上げる。ここから終盤でデュークの独壇場となる。海上への着水を決めた、事故経験の無い機長と、わずか11分の余裕を生み出し、着陸を試みようと考えるデューク。だが、デュークが副操縦士であることには理由があった。その過去に囚われているため、デュークは一度は可能性を捨てようと考えるが・・・と、同時に乗客それぞれの心情の変化が描かれていき、147分を引っ張る人間ドラマが飽きさせず展開する。着水か?着陸か?その直前にもう1ドラマがあって、おなか一杯のフルコースを食べた印象だ。デュークのフィルモグラフィではかなりの大ヒット作となったそうだ。
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