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千の顔を持つ男のFilmomoのレビュー・感想・評価

千の顔を持つ男(1957年製作の映画)
4.5
①「千の顔を持つ男」とは私立探偵多羅尾伴内のことではなくて、サイレント映画時代に活躍した俳優ロン・チェイニーのこと。舞台芸人だったが当時台頭してきた映画の世界に活動の場を移し、役者の職にありつくために様々な技術を駆使して、今でいう特殊メーキャップで才能を発揮した。『オペラ座の怪人』や『ノートルダムのせむし男』が代表作。②映画は彼の功績を讃えて製作された記念碑的作品。ろうあ者の両親とのエピソードや、彼を支えた踊り子の献身的な姿が胸を打つ。時代が時代だったために、生まれてくる子がろうあなのではないかと苦しむ姿は痛々しい(だが、生まれたロン・チェイニー・Jrは健常者だった)。③ロン・チェイニーを演じるのはジェームズ・キャグニーで実に達者。ギャング映画のスターという紹介が多いが、ギャングスターよりも演技派の名優だと思う。彼の最初の妻がドロシー・マローン。私のお気に入りで、ハンフリー・ボガードの『三つ数えろ』が忘れられない。眼鏡をはずし、髪を解くと色っぽい美女に早変わりするという有名な古本屋の店番の女性を演じていた。後の妻がジェーン・グリア。ちょっとデボラ・カーに似ている。この人も綺麗な人で、ザ・ハリウッド女優という感じ。とてもいい女性を演じている。マローンはチェイニーとひと悶着起こして子供を放り出して舞台の世界に戻るという、損な役回りだが、最終的に「悪い人」とは描かれていない。ロン・チェイニー以外の関係者や親族が存命中に製作されたと思われ、悪い人が出てこないのだろう。この映画を見るとチェイニーの出演したオリジナルのサイレント映画を見たくなるが、今はそれもたいていYouTubeで鑑賞できるからたいした時代になったなあと思う。
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