櫻

東京人間喜劇の櫻のレビュー・感想・評価

東京人間喜劇(2008年製作の映画)
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人の暗部にこそ真理があるのだとして、その暗闇に手を伸ばしてみても、何があるのかすべて紐解くことはきっとできない。黒の宇宙に手を泳がせて、てさぐりで触れたその生々しい感触が脳内にこびりつく時、唯一の真理を掴んだのだと錯覚する。しかし、それはほんの一部分で、わたしはあなたというすぐ近くの人間のことさえ、理解するにおよばないのだと、ひやりとした感覚とともに思い知るのだった。すると、見慣れたはずのその人の顔の特徴がだんだんとうすれていき、目も口も鼻もすべて一色になって区別がつかなくなっていく。人というのは未知なる宇宙で、遠くからながめるほど滑稽で、近しくなるほどにおそろしい。
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