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流れるの東京キネマのレビュー・感想・評価

流れる(1956年製作の映画)
4.5
いや~本当に面白い!

話なんて大したことないのに、何でしょうねこの深さ。 人物キャラやセリフに一切の無駄がありません。 いやはや参りましたね。 成瀬巳喜男の映画にしては珍しく117分もありますが、全く長さを感じさせません。 これ藤本真澄がプロデューサーだから出来たんだろうなあ、って勝手に妄想しています。 昔は100分以上の映画なんて映画会社が許しませんでしたからね。 昭和31年公開ですか。 この当時、普通の人たちが普通にこういう高級な文芸作品を見ていたなんて羨ましい限りです。

お馴染みのヤルセナキオ風味ですが、セリフを読み込んでいくと、セックスと金と羨望と侮蔑のドロドロの関係が見えてきて辛くなります。 これはやっぱりキャラクターがしっかりしているからなんでしょうね。 置屋の女将(山田五十鈴・・・色っぽい!)、売れない芸者(杉村晴子・・・うっとおしいババア・・・笑)、訳あり女中(田中絹代・・・お上品!)、愛嬌なしのリアリスト(高峰秀子・・・性格悪そう)、みんなそれぞれ濃密に人格描写が出来ていて存在感があります。

山田五十鈴のキャラクターって今だと殆どリアリティーがありませんが、昔の日本人ってこういう風に丸く収めてたんだなあ、って気付かされます。 でも、俯瞰してみると何も根本的には解決してないんですよね。 だから、流れる、なんですね。

山田五十鈴が別れた男と寄りを戻すために料亭に行くんですが、このシーンが堪らなくいいです。 いや~辛い、辛い。 ラストの放りっぱなしってのは定番ながら、この映画は特に効いています。 時代に押し流されて、みんな大変な状況になるだろうニュアンスになってます。 切ないねえ~。 (突然ですが、コーエン兄弟ってもしかすると成瀬巳喜男をパクってるのかもね。)

個人的に面白かった所。 住み込みの女中さんとお給金の話をするんですが、三食のご飯、休みは月2回、月給3000円ですって。 悪かないですね。 それと、お巡りさんが夜回りにやってきて、洗濯物が干しっぱなしだと物騒だからしまいなさいと注意。 ありゃまあ、そりゃ気付きませんで、まあ中に入って一休みしてって下さい、ってんで五目ソバを頼んであげる。 ラーメンじゃないんですよ。 まあ花柳界だから見栄を張ってるんだろうけど、いいねえこの時代。 今じゃ夜中の洗濯もんが何で物騒なのかも解らないし、お巡りさんが夜いきなり玄関口にやってくるってのもあり得ないし、ましてやソバをご馳走になっちゃうなんてこともねえ。 本当に日本て別世界になっちゃったんですね・・・。
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