平野レミゼラブル

燃えよ剣の平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

燃えよ剣(1966年製作の映画)
3.6
【喧嘩師歳三の鬼の軍略と剣捌きを見よ!!】
岡田版燃え剣を観たので、元祖燃え剣実写化である1966年公開の本作も観賞。まあ同年始めには既に内田良平主演でドラマを放映していたとのことなんで、1年間に2回も実写化とかだいぶ凄いことになっていますが。
主演は前年から放映されていた『新選組血風録』で同じく土方歳三を演じてハマり役と言われていた栗塚旭。確かに2枚目ではありますが線が太く、ご本人の写真を見ても線が細い現代基準のイケメンである土方歳三のイメージとは流石に違いますね。流石にここら辺は昭和基準でのハマり役かな。
ただ、この燃え剣土方によって栗塚旭の地位は盤石となり、数多くの時代劇で主演を努めるスター街道を歩み出すのだから影響力は甚大です。大河ドラマ『新選組!』でも三谷さんが元祖土方である栗塚さんに敬意を払ってトシの実兄・為次郎役に抜擢したのも有名な話。

岡田版が『新選組血風録』等の他作品も詰め込みながらも、結局燃え剣というより土方歳三の人生ダイジェスト映画になっていたり、それに合わせてオリキャラの七里研之助の扱いがふわふわしていたのが残念でしたが、栗塚版は七里研之助との因縁に決着がつく前半部分までを描いているのでお話としてまとまりがあります。
ヒロインも岡田版ではカットされた佐絵になっており、出番が後半からのお雪は影も形もないなどこの辺りも対象的ですね。ただ、原作では京都に来たことで変わってしまったトシの象徴であるためにあっさり気味にフェードアウトした佐絵の存在がデカくなっており、七里との因縁も佐絵を巡ってのラブが関係しているのは、かなり大胆な翻案と言えるやも。

本作、やっぱり内容を原作序盤に絞ったのがかなり良くてですね、しっかり『燃えよ剣』をやっている感じがあります。特に嬉しかったのが、トシの軍略と強さの片鱗が発揮される七里達との最初の決闘部分を実写で完全再現してくれたところでして、かなり見応えがありました。
多人数相手にトシと沖田のたった二人で斬りこみに行くとか、相当巧くやらないと嘘臭くなりそうなところなんですが、本作は暗闇から相手の弱所を斬り込み混乱させて、あとは地力で順次突破していくという原作に沿った丁寧な合戦ぶりをわかりやすく映像にしてくれています。
殺陣もかなり丁寧で、しっかり組み立てた上で画面に映えるような工夫を凝らしているなと惚れ惚れするほど。白黒映画ですが、ちゃんとこう来たらこうって段取りがわかりやすく目で追えて、乱戦であっても誰が何をやっているのかしっかりわかるというのは嬉しい。岡田版は動きこそキレキレでスピーディーでしたが、折角のその殺陣が暗くてよく観えないってのが多発しただけに猶更ね。

ただ、七里との最初の決闘までは司馬さんの原作にかなり忠実に進んでいたのですが、京都に登ってからが異様にダイジェスト気味。清河八郎の造反、芹沢暗殺、佐絵との再会などが間の説明をかなりスッ飛ばして展開されるため、突然オムニバス形式になった感じさえある。
前半の史実関係は間を埋めるように解説を入れて丁寧に展開していた岡田版とはやはりこの辺りも対になる感じ。むしろ、栗塚版のメインとなるのは「トシ-佐絵-七里」の因縁の三角関係とも言えるので、実はトシが新選組副長である必要性もないという。
佐絵と新選組、どちらを取るかの葛藤の末の皮肉な結末はトシにしか出来ないとは思うものの、まあそっちも新選組を何に置き換えたって成り立つっちゃ成り立つ。そういう意味では新選組モノというより、純正な悲恋を描いた時代劇と言った方が良いのかもしれません。

ただ、それでも本作の池田屋事件の迫力は圧巻。特に史実でも2時間フルで斬り合って無傷という意味不明な戦績を見せつけた近藤局長が無双しまくってるのが良い。下手するとトシの戦いより尺取って強さを見せつけています。
別動隊としてハズレの丹虎に出向いたトシが、そこで居合わせた七里と斬り合ったと思ったら、両者ともに池田屋に駆けつけてそっちで仕切り直すのはやけに忙しないものの、まあ決着は池田屋でつけた方がドラマチックですしね。

土方・近藤・沖田のゴールデントリオはともかく、他の新選組メンバーはとりあえず名前だけ設定されているモブで影が薄いのは流石に尺が90分であるが故か。
もしくは、まだそこまで各隊士のキャラ付けが進んでいないからですかね。今日の新選組の各キャラクターのパブリックイメージってのは子母澤寛から司馬遼太郎の系譜を経て、徐々に肉付けされていったようなもんですしね。そういう意味では新選組の源流に近い作品と言えるでしょう。