haru

悲しみのミルクのharuのレビュー・感想・評価

悲しみのミルク(2008年製作の映画)
3.5
受け継がれた苦しみ。

ファウスタは母の遺体を故郷に埋葬する費用を稼ぐため、ピアニストの家でメイドとして働くことに。ある日ファウスタが仕事中に歌を歌っていると、ピアニストが興味を示し、ある提案をしてくる。

冒頭の母の歌がエグすぎて、さっそく心が折れました。歌われていたのは、80年代のペルーで起こっていたテロで母親が体験した壮絶な恐怖。娘がお腹にいたとき、母はレイプされ、目の前で夫を殺された。これが母乳を通じて娘に受け継がれ、ファウスタは母と同じ目に合わないよう、自分の体にじゃがいもを埋め込む。どう考えても体に悪いのに、ファウスタはこれが自分の身を守る術だと頑なに信じている。
80年代のペルーではセンデロ・ルミノソによるテロが行われ、多くの犠牲者が出たそう。その苦しみは次世代にも影響し、母から娘へと受け継がれていく。女性が体にじゃがいもを埋め込むことで身を守るというのは、ファウスタの故郷の伝承のようですが、私たちからしたらありえないことを根拠もなく信じるほど、彼女たちは追い詰められている。
エキゾチックな顔立ちのファウスタはまさに私が想像するペルー人でしたが、彼女の主人となるピアニストは白人系でした。ペルーでは白人系が上流階級で、少数派にもかかわらず富裕層が多いらしい。映画を見ている限りでは、人種で人生が決まりそうな感じでしたが、それに異を唱える者はおらず、ファウスタが主人に反発するとか、ピアニストがファウスタに同情するとか、そんなことは一切ない。誰もが与えられた環境に疑問を抱くことなく生きている。そんな中でファウスタがラストに言ったセリフは、きっと私が思う以上に重いもの。最初はドンヨリしてましたが、後味は爽やかです。
haru

haru