あなぐらむ

赤ちゃん泥棒のあなぐらむのレビュー・感想・評価

赤ちゃん泥棒(1987年製作の映画)
3.9
コーエン兄弟+ニコラス・ケイジ。嫌な組み合わせである。
コーエン兄弟はこれと「ブラッド・シンプル」で十分。
ニコさんは「ワイルド・アット・ハート」ではリンチとも組んでて、昔はインディ系役者の風情だった。ジョン・ダールの「レッド・ロック」にも出ていてこれも良作だ。濃いんだよ顔が。

コーエン兄弟のフィルモグラフィでもひと際のドタバタコメディ(というか、最初はサスペンスな人達だと思っていた)。
ケチな泥棒ニコラス・ケイジ&ホリー・ハンター夫妻が不妊かつ、逮捕歴で里子制度が使えなかった事から、土地の富豪の赤ちゃんを盗み出そうとするが……というお話。
実際の所、「ブラッド・シンプル」で兄弟が出てきてからは、どんな撮影機材をどんな風に使うのだろう、というそこが一番の関心事だった。
彼らの作る物語は決して目新しいものではないし(寧ろアメリカの古典的なものを反芻しているようにしか見えない)、面白いかといえば面白くは無いのだ。これは高く評価された「ファーゴ」についても、面白くないと思っているのが当アカウントの姿勢である。「ミラーズ・クロッシング」なんて画は凄いけどくそつまらん映画である。

所が本作は面白い。予算をもらっての一作目、やりたい事をやろう、という気持ちがこのあっけらかんとしたバカ映画を産んだのだろう。これは決して「アート系」映画ではない。誓ってバカ映画である。みんなで「あ、馬鹿ぁ~」って小声で言いながら見る映画である。

デビュー作でダシール・ハメットの小説の一節をタイトルに持ってきたこの兄弟は、本作でも極めてアメリカ的な、土着的/辺縁的な事象をテーマに据えている。場所はアリゾナ。問題とは里子制度だ。今もってDVなどとも絡み合って取沙汰されるこの問題について、或いは反キリスト教的な考え方として、本来授かる筈の「赤ちゃん」を盗んでしまうというおバカな(足りないようにしか見えないのは、「ワイルド・アット・ハート」と同様である)カップルを、それでいてアメリカのどこかで実際に起こっていそうな問題として、コメディの衣をまとって提示してくる。重喜劇ならぬ、軽悲喜劇として、馬鹿な人間ほど一番悲しいのだと、暗に作品は訴えて来る。

映画監督でもあるバリー・ソネンフェルドによる斬新なカメラワークと、すっとぼけた耳につくサントラ。ジョン・グッドマンやフランシス・マクドーマンド(コーエン組)といった助演陣も楽しい映画であるが、笑っているとすっと足を掬われるような、そんな映画である。