滝和也

間諜最後の日の滝和也のレビュー・感想・評価

間諜最後の日(1936年製作の映画)
3.5
ヒッチコック英国時代の
古典的スパイ映画の
先駆け…。

そのサスペンスの仕掛け
は後年のスパイ映画に
色濃く影響を与えている。

「間諜最後の日」

葬式が行われている冒頭シーン。棺桶の中は空っぽであり、死んだはずの男にRと呼ばれる英国スパイの長から命令が下される。第一次大戦下、中立国スイスで暗躍するドイツのスパイの正体を暴き、倒すことを命じられた男は協力者である女性と暗殺者、将軍の呼び名を持つ男と活動を開始する…。

アシェンデン夫妻と偽る主人公と協力者の女性。その女性を口説こうと接近してくる男性との恋の鞘宛、疑似ラブコメ的な要素を組み込み、かつコメディリリーフとしての暗殺者将軍の存在故にシリアスとコメディを行き来してしまう、この時代としては複雑かつ実験的ストーリー故に散漫さを感じてしまうのは否めない。

だが、シリアスなスパイものの醍醐味である、殺害シーンのサスペンスフルな展開はやはりヒッチコックだ。ホテルで飼い主である容疑者の機器を察知したかのように泣き叫ぶ犬、望遠鏡の中に映る断崖に立つ容疑者と暗殺者、そしてそれを見る主人公と三ケ所を交互にカットバックし、サスペンスを盛り上げる手法は、現代ではあざとさを感じるが、当時は画期的かつ恐怖を煽るに十分効果を上げている。

またトーキーへと進化した時代故に音への拘りが見て取れる。延々と流れるパイプオルガンの音色。死体が崩れ落ち音が止まるシーン。隠れた場所が鐘の側で大音量で響き渡る音。

そして船、列車、飛行機と乗り物を効果的に使用したサスペンスの盛り上げ。やはり白眉はラストの敵地に向かう列車、爆撃してくる英国複葉機の空軍、車内でのスパイを追い詰める主人公らの緊迫したシーンの高揚感だろう。

またこの話は望んでスパイになった訳ではない主人公とスリルを求めて協力者になったヒロインが戦時下でありながらも殺人を行わざる得ない現実に苦悩すると言うアイロニーも含んでおり、時代性を考えれば、こちらも先見性やヒッチコックの慧眼を称えるべきだろう。

主演はクールなイメージのジョン・ギールグッド。現代ならレイフ・ファインズをイメージする。ヒロインは三十九夜からのマデリーン・キャロル。明るく美しいイメージから苦悩するヒロインを好演。ただインパクトが強いのは、暗殺者将軍役のピーター・ローレ。Mの怪人物役で有名な方。メキシコ人に扮し、女好きであり、コメディリリーフを引き受ける暗殺者と言うサイコパス役のため、印象に残ります。

ストーリーの散漫さは否めないのですが、そのテクニックや迫力で持っていかれる作品。死亡後のスパイ任務、ヒロインとの協力、列車や乗り物を活かしたアクションと後世スパイもの、まぁ007を含め影響を及ぼしたと思われる作品ですのでお暇なときにでも(^^)。