keith中村

007/カジノ・ロワイヤルのkeith中村のレビュー・感想・評価

007/カジノ・ロワイヤル(1967年製作の映画)
4.5
 私が子供の頃に、本の中で、和田誠さんたち「いい大人」が大絶賛していたが、当時はレンタルビデオもまだなかったので、観ることができなかった。
 ずいぶん後にDVDで初めて観たのだけれど、「なんじゃ、これは」とのけ反ったものだ。
 「いい大人」がこんなもの喜んでたのか!
 ただ、それから何度も観直すうちに、どんどん癖になって来るから困ったもんだ。
 
 本作でいちばんいい仕事をしているのは、多数いるうちのどの監督でも俳優でもなく、間違いなくバート・バカラック。
 とはいえ、私は筋少のアルバム「猫のテブクロ」を先に知っていたので、オープニング曲を聴くと、どうしても「GO! ハイキングバス!」と歌ってしまう。
 ボーカル曲の「The Look of love」も素晴らしいし、インストルメンタルもすべて「ああ、なんてモダンでお洒落なんだ」という曲揃い。
 
 曲の話なら、バカラックのオリジナル以外もせねば。
 無意味にライオンがいっぱい登場するシーン(あきらかに別撮りか、ほかのフッテージ)では「野生のエルザ」が流れる。
 エルザと言えば、日本では松島トモ子を齧ったライオンの先祖としても有名である。
 
 ピーター・セラーズが、「レオン」のナタリー・ポートマンばりにお着替えをする(違うか)シーンで、ロートレックに変装するところでは、ロートレックの伝記映画「赤い風車」の「ムーラン・ルージュの唄」が流れる。
 っていうか、「赤い風車」って同じジョン・ヒューストン監督だよね。
 爺さん、ふざけてやがんな。ま、本作では嬉々として出演もしてるし、ふざけてるのは間違いない。
 
 ウルスラ・アンドレスがドイツにいったパートでは、トム・ジョーンズの「何かいいことないか子猫チャン」。
 ウルスラ、そっちにも出てるよね。
 というか、「~子猫チャン」も作曲はバカラックだし、脚本はウディ・アレンだし、ピーター・セラーズもキャプシーヌも出てるし、もう何が何やら。
 
 とはいえ、本家イオン・プロだって、パロディ的に「アラビアのロレンス」「荒野の七人」「未知との遭遇」なんかを臆面もなく使ってるしな。
 
 本作のいちばん素晴らしいところは、イオン・プロの「カノン」しか観ていない人には解けない映画クイズが作れるし、解けちゃうこと。
 
「映画でボンドを演じた俳優を10人あげよ」
 ⇒イオン・プロだけだと6人しか答えられない。
 
「映画史上唯一、ボンドガールとボンドの両方を演じた俳優をあげよ」
 ⇒本作を見てないと、質問の意味すら理解不能。
  ウルスラ・アンドレス、「カノン」での初代ボンドガールなのに何やってんだ。
  あと、ついでに言うと、エヴァ・グリーンより何十年も前に前にヴェスパーを演じてるわけだしね。
 
 それにしても、これだけ滅茶苦茶な作品なんだけど、根幹のプロットは一応ちゃんと「カジノ・ロワイヤル」になってるところが、凄い。いや、凄いのか、それって。
 ちょっと「高慢と偏見とゾンビ」的でもある。
 
 この翌年にも、「豪華出演者によるトンデモ映画」としては、スタッフなどの共通点はないが、「キャンディ」が作られている。っていうか、ジョン・ヒューストン! あんた、そっちも出てるよね!
 
 あとは、ずいぶん後年の「マーズ・アタック!」あたりが、これらの系譜にある。
 本作でもUFOが出てくるんだけど、ティム・バートン、そこからアイデアを膨らませたか?
 あっちは本家イオン・プロのピアース・ブロスナンも出てたよね。
 
 そうそう、あと一点だけ。
 ボンドの娘(というか、ボンドとマタ・ハリの娘というすごい設定の)「マタ・ボンド」役のジョアンナ・ペティットって、垂れ眼な感じがダイアナ・リグに結構似てません?
 そう。「女王陛下の007」でトレイシー役やってた、唯一の「ミセス・ボンド」のダイアナ・リグ。
 こんな馬鹿映画観てるのに、「ああ、トレイシーがあそこであんなことにならなかったら、母親似のこんな娘が産まれてたのかも」なんて涙ぐんじゃったよ、もう!