ロックウェルアイズ

チェイサーのロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

チェイサー(2008年製作の映画)
4.8
デリヘル経営者の元刑事ジュンホは、自分の店の女性が失踪を繰り返すことに不審感を抱き、調べるとある1つの携帯電話の番号に辿り着く。
ひょんなことからその男と遭遇したジュンホはその男を捕まえ問い詰めるのだが……

うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ最悪だ…………
胸糞ベスト更新してしまったかもしれない……
地獄の追いかけっこ映画だとは聞いていたけれど、まさか開始30分で追いかけっこを始めるとは思わなかった。
しかもそこからあんな風に展開していくとは。

普通さ、こうなってもああはならないじゃん。
きっとどこかに救いがあるとうっすらと思っていたよ。
尾行もあったし、もう少し降りれば街、もっと広い道路に出られたはず。
あの結末を迎えない要素は無限に合った、なのに。
ご都合主義という名の救世主がいないどころか不都合主義という名の悪魔が100体くらいいる感じ。
その後も負の連鎖は断ち切られない。
「復讐は何も生まない」と言うが、これを観せられたら復讐者にも同情したくなる。
そう思ったのも束の間、数分後には前言撤回。
一つの街で繰り広げられる目まぐるしい展開に思いきりやられた。

物語のクライマックスに至るまでの過程、そしてあの結末。
全体を通して細部に渡る表現や構成が上手くナ・ホンジンの演出力が光っていた。
背景に組み込まれる宗教観であったり、意味ありげなカメラワークだったり、一瞬一瞬が見逃せないシーンの連続。
泣くシーンに雨を降らせたり、血まみれのあのシーンをモノクロにしたり、芸術点の高さも印象的だった。

『哀しき獣』のあの2人だが、『哀しき獣』の時とはキム・ユンソクもハ・ジョンウも全く印象が違う。
ハ・ジョンウはとても何人も人を殺しそうには見えないが、それが徐々に強い疑惑に変わり最終的には確信に繋がるから凄いし怖い。
キム・ユンソクも悪役が多いイメージだが、この役が1番好きかもしれない。
今回は骨で人を殴ることはなかったけどお皿などとにかく投げて殴るといった感じなのでそこは大して変わらず。
子役ってあんまり得意じゃないんだけど、韓国の子役って凄い魅力的だと毎回思う。
韓国ノワールでは不憫なことが多いので、せめて現実では幸せであって欲しい。

悪に近づけば強さが増し、善に近づけば弱さが増すというイジワルさ。
犯人の残虐性だけでなく主人公の判断や警察の対応など多方面に問題があり、主人公自身にも罪があって免罪されるほど挽回することができないというのがこの映画のやりきれない気持ちを増幅させる。
重い内容だがテンポ感は良くて意外と観やすく、途中ではギャグ要素もあったりしてストーリーと感情の乱高下が忙しい。
拳が全ての元鬼刑事、半地下街の路地裏で起こる猟奇殺人、何を考えているのか分からない容疑者、最悪の関係から愛が芽生える血の繋がりのないアジョシ、疾走感と泥臭いリアルなアクション、やりきれない鬱エンド、無能警察、動物虐待、痛々しい拷問…etc
韓国ノワールでしか得られない栄養素がふんだんに詰まっている。
とにかく走って走って走りまくるが、走ってゴールテープを切るのではなく、ゴール直前で足を切られて腹這いになりながら一応ゴールはしたようなえげつない映画。
あまりまた観たい!とはならないが、評価されているだけある傑作だった。