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針の眼のsleepyのレビュー・感想・評価

針の眼(1981年製作の映画)
4.1
男の任務、女の使命  ****



原題:Eye of the Needle、81年、112分
1945年、英国に潜入していたドイツのスパイ「針」Needle(サザーランド)。それを追う英国軍の捜査網・追跡。ノルマンディ上陸作戦の情報をUボートへ渡すため、英国捜査陣から逃れ、漁船で海を渡るが嵐に合い遭難。厳しい自然の孤島、ストーム島に流れ着くがそこには車椅子の夫とその妻(ネリガン)がいた。

前半の逃亡・任務達成サスペンスから、一転後半は「針」と人妻との間に急速に芽生えたロマンスを織り交ぜて描く。原作でも作者フォレットの狙いのひとつはこのロマンスというか2人の葛藤にあった。正体を知られた者はすべて躊躇なく殺してきた非情なスパイは、思いがけない愛と任務達成に、そして人妻にとっては不貞に揺れる。原作は同じ意味で傑作だが、両者は個別基準で評価されなければならない。表現形態が異なるのだから映画としての表現はどうか、という点で。映画は島に到着してからの2人に焦点を絞った。ただ、やや駆け足なところ、2人の心情の成熟の説得力がもうあと半歩か。しかし換骨奪胎するか、短編をヒントに、というのとは異なり、大部・ベストセラーの原作をできるだけ忠実に映画とするなら、ある程度仕方ない。

当時老齢だった大巨匠ミクロス・ローザの硬軟織り交ぜた音楽が出色。そして遺憾なくその「英国映画」ぶりを発揮しているロケ撮影(英国の実力派アランヒューム)・美術・衣装・小道具。戦時の英国の「空気」、街並み・孤島のリアリティ。なにより近時の米大手娯楽作品の粗っぽさが目に余る近時、英国映画の落ち着いたタッチ、堅実な作劇と実感ある俳優陣の芝居が好ましい。サスペンスは70分頃から加速し、クライマックス、2人の葛藤は終止符を打つ。原作も是非。佐々木譲の「エトロフ発緊急電」(89年)を少し思わせる。

★オリジナルデータ:
原題:Eye of the Needle, UK, 1981, 112min. Color(Technicolor)、オリジナル・アスペクト比(もちろん劇場上映時比のこと)1.85:1、Spherical、Mono、ネガ35mm, ポジ35mm
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