もものけ

キック・アスのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

キック・アス(2010年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

デイブはイケてない学園カーストの最下層にいる普通以下の学生。
イケてない仲間とコミックの会話をし、ヒーローに憧れながらも何もできない人生に諦めている毎日。
しかしある日、デイブはネットでヒーロー・コスチュームを手に入れ、ついに夢を実現すべく街へ繰り出すのだった…。






感想。
誰もが夢見て憧れるコミックの中のスーパーヒーロー。
でも悪を目の当たりにして、不条理な現実の辛さを受け止め、見て見ぬ振りをする現代を、"キック・アス!"してやるメッセージが込められたアクション・コメディ映画。

YouTuberが流行る現代を風刺して、素人ヒーローでありながらも有名になってゆく過程が、いかにも今のコミュニュケーションツールにハマる孤独な人々として、チャットや出会い系とは別種な自己主張ツールであるYou Tube社会を表しております。

イケメンなアーロン・テイラー=ジョンソンが眼鏡でオタクを演じていますが、肉体美とアクションで後半に向けてカッコよくなってゆく展開が、ギャップ萌という感じでしょうか。
とにかく演技が上手く、コミカルさも表情豊かに演じ分けております。
お父さんになんとニコラス・ケイジが登場するという豪華さ。
その中でもやはりヒロインとして、最高の演技を見せたクロエ・グレース・モレッツが一躍人気者になるキャリアの転換作品であり、まだ幼さが残るチャーミングな顔立ちに、放送禁止用語連発というキャラが、これまたギャップ萌というのでしょうか。
同じ系統の顔立ちながら、演技に天と地ほどの差があるアンディ・ガルシアに似た俳優マーク・ストロングも冷酷な父親マフィアとして登場。
キャスティングも豪華さ満点な作品であります。

とにかくクロエ・グレース・モレッツの可愛さがいっぱい詰まった作品で、あの独特なイントネーションの英語が個人的にも大好きです。
子役時代からのキャリアもあり、大袈裟である演技ですが、表情で伝えるのも上手く、個人的には注目している女優の一人ともいえます。
そのクロエ・グレース・モレッツが最後の可愛さで、成長前を締めくくった最高傑作なのではないでしょうか。

スーパー・ヒーローに憧れる現実と並行して、本物のスーパー・ヒーローが活躍するアンダーグラウンドな非現実的世界が描かれて、虚構と現実が入り混じって合わさるラストへの伏線として、盛り上げ方が非常に上手い。
スーパー・ヒーロー映画が流行っている時代を逆手に取った発想は見事。
それを恥ずかしくなるほどの情熱で描くのではなく、現代を風刺したコミカルさを持って描いて、ノリノリの音楽に合わせて娯楽作品として完璧に作っております。
そして、現実の厳しさのように初回の街の掃除は、アッサリとナイフで腹を刺されて出血しまくり、車に撥ねられるて重症で病院送りという、ブラックジョーク。

そんな目にあっても、彼は諦めません。
この情熱こそが、スーパー・ヒーローであり、現代が失ってしまった正義の心であります。
単純に楽観的なおバカさんともいえますけど(笑)

コミカルな演出の中にブラックジョークや残酷描写を交えます。
ここにもギャップが散りばめてあり、作品への虚構と現実との乖離を強調させます。
ネットで拡散された姿に自分を重ねて応援し、誰もが持つヒーローへの憧れを具現化する動画を見ることによって、自分自身がヒーローになったかのような高揚感を感じます。
これは私も映画を鑑賞することと同じ事であり、乖離しているはずの虚構と現実が合わさってゆき、ストーリーに入り込んだ自分が重なって、高揚感を感じることがある感覚です。
作品では表と裏で同時進行するストーリーが、主人公の世界と合わさってゆく過程が、ゲームのように熱くなって人々を熱狂させる表現として演出されております。

そんな主人公は本物のヒットガールと対峙して挫折感を味わいます。
こういった主人公の成り上がりや挫折感など、コミックの典型的パターンなのに入り込めるのは、これまでの演出から主人公と同一視された観客が感情移入しやすくなることです。
さらに主人公はヒットガールと間違われて渦の中に巻き込まれます。
こうしてドラマ性を盛り立ててゆく脚本は、さすがハリウッド作品であります。

特殊能力を持つヒーローが出てくる訳ではありません。
見返りを期待しない主人公は痛めつけられ、ヒーロー並みの力を持つヒットガールは金と麻薬を奪ってゆくという、およそスーパー・ヒーローっぽくない展開が、逆に現実的で面白さがあります。

面白いのは人がヒーローに憧れだけを抱くのは、失いなくないものがあるからという主人公の気持ちから分かる道理。
本来は自分の生活を乱すことがないなら、悪に目を伏せて普通に暮らすほうを選びます。
ヒーローになろうとするのは、命知らずのおバカさんなのです。
さらに、殴られっぱなしの主人公は虚構の世界へ足を踏み入れることで、本物のヒーローになろうとしますが、彼が手に取るのはリアルな武器。
悪と戦う者は、暴力の世界へ身を投じなければならないと言わんばかりに、ガトリングガンで組織の男を蜂の巣にする様は、理想だけで街の掃除人になっていた主人公ではなく、虚構の世界にいる本物のヒーローという皮肉。
暴力に対抗するには暴力という、身も蓋もないリアルさを叩きつけけてきます。

笑いや残酷描写の中にも、メロドラマやラブストーリーも含んで、物語の幅を広げながらシンプルさも兼ね備えております。
ホロッとする場面や、胸が熱くなる描写などもあり、あらゆる要素の詰まった作品でもあります。
「トッツィー」「バックドラフト」「スカーフェイス」「ニキータ」など、様々な作品のパロディもあり、見つけて笑える楽しみも。

ヒーローに目覚め、栄光と挫折から窮地に落ちて、大逆転で締めくくる姿と、苦悩を通して現代に叩きつける見事な展開に、頭空っぽにして楽しめる極上のエンターテイメント。
アクション・コメディの最高傑作に、5点を付けさせていただきました!!

とにかくクロエ・グレース・モレッツがチャーミング!!
そして子供と大人地味た演技を使い分け、愛くるしい顔で演じる仕草。
それでいてナイフや銃を構えて冷酷に殺しまくり、汚い言葉を吐きまくる。
子役の新しい表現方法でもあるこの作品に、まさにピッタリなキャスティングだと思えるほど、彼女の成長と演技力の将来性を期待させられる傑作でした。
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