このレビューはネタバレを含みます
一大断捨離冒険譚ついに完結。
冒頭、前指輪の所有者スメアゴルの挿話から始まる。
指輪を持つことの恐ろしさを再確認させられると共にフロドの未来を暗示するかのような不穏な幕開け。
サウロンの一軍が侵攻する標的を、アラゴルンが王位継承権を持つゴンドールという土地に定めれば、不穏は雪だるま式に肥大化する。
侵攻を許し戦塵が吹き荒ぶゴンドール。
劣勢の中、各々が死力を尽くす。
シェイクスピア悲劇リア王のように狂気に身を貶めた執政官デネソールに変わって軍を指揮するガンダルフ。
小さき体に溢れる闘志を湛えたメリーとピピン。
敵を倒した数を競い合う事で友情を示し合うレゴラスとギムリ。
そして、王のみが戴ける剣を手にして姿形のない軍勢をアラゴルンが率いれば、敵軍はぐらつく。
一方、ついにサウロンを目前に控える滅びの山に辿り着くフロドとサム。
サウロンが監視カメラみたいでじわじわくる。
あとは、火口に指輪を投げ込むだけで全てが終わる。
ここで冒頭の不穏なシーンがフラッシュバックする。
フロドもスメアゴルのように指輪の魔力に呑まれてしまう。
ところがここでフロドとスメアゴルの違いが浮き彫りになる。
美中に棘あり棘中に美ありの表裏一体の関係としてフロドにはサムがいた。
「あなたの重荷を背負うことは出来ませんが、あなたを背負うことは出来ます。」
指輪に呑まれるフロドごとサムは背負った。
なんという器量。。。
そして大円団を迎えハッピーエンド。
などという軽々な終わり方はしない。
1人の人間という大巻の書はけっしてインクでページを埋め尽くされることがない。
そしてまだ書き足されていない空白のページにいつでも筆を落とせるように、そっと栞を挟んではまた新たな地へと足を伸ばす。
"生という物は苦艱を離れない。併しそれを避けて逃げるのは卑怯だ。"
(青年/森鴎外)
その旅は死ぬまで終わることなく、それ故に美しい物であった。