踊る猫

そして人生はつづくの踊る猫のレビュー・感想・評価

そして人生はつづく(1992年製作の映画)
4.4
当たり前のことを書くと、地震は突発的に起きる災害である。地震が起きることは想定はできても、それを厳密に織り込んで生きることなど出来はしない。その不意のアクシデントである地震を体験しても、それでもなお生きていこうとする人々の姿を素描したこの映画は、しかし暑苦しさを感じない。むしろのどかな音楽に彩られた本作から感じられるのは、「人間讃歌」としてのハートウォーミングな側面である。なぜ人は生きなければならないのか、身内が沢山死んだのに……と深刻になる間もなく、生きる人々は地震を自分の人生の中に織り込み、日常として処理する(死者を弔う心を忘れない反面、意識は早くも行われるワールドカップに夢中になっている、というように)。こうした日常で非日常を飲み込み、生きる糧として処理する所作をこそ「終わりなき日常を生きろ」と呼べるのではないか。ジグザグの坂を車が必死に上るところをロングショットで撮ったあたりに惹かれた。深刻な話題をユーモアを交えて語る、この語り口こそキアロスタミの十八番なのかな、と思ったのだ。
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