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ランゴのymdのレビュー・感想・評価

ランゴ(2011年製作の映画)
4.2
これは隠れた(?)名作アニメーション!
2011年公開とは思えないほど美麗で精密な3DCGと、エンタメ感たっぷりながらも哲学的で深度の高いストーリーテリングが世界観に結びついた実に素晴らしい傑作です。

ジョニー・デップが主人公ランゴの声優を務めていることが売り出されている作品だけど、ジョニー・デップらしいコミカルでミステリアスな空気感がアニメーションにしっかりと浸透しているので彼のファンなら観るべきだ。

これは監督のゴア・ヴァービンスキーの成せる技だろう(彼は『パイレーツ・オブ・カリビアン』の監督でもあり、ジョニデとは蜜月の関係にある)。

本作のウエスタンスタイルはゴア・ヴァービンスキーの西部劇に対する底知れない憧れに拠るものらしく、本作の後に『ローン・レンジャー』を作っているというのも納得だ。

基本的にはコミカルで笑いどころの多い映画だ。
主人公ランゴを筆頭に、非力で忌避されがちな小動物・爬虫類たち登場キャラクターの造形が絶妙に気持ち悪いのがクセになるし、人間世界の縮図そのもののムラ社会っぷりが実に生々しくシビアなのも楽しい。

ストレンジな舞台設計なのにウエスタン映画の王道を行く勧善懲悪の活劇モノであるという構造も良い。

悪戯心に溢れたパロディ精神全開の小ネタの数々は拾いきれないほどだし、マカロニウエスタンを語る上では外せない某大物人物を模したとしか思えない“西部の精霊”が登場する一連の流れは見事過ぎて笑いが止まらなかったな。

そして本作が何より素晴らしいのは、ランゴというキャラクターが映画一本を通してさまざまな苦難を乗り越え変化していく成長譚になっていることにある。

ランゴが愛玩カメレオンという設定を見事に活かしたプロットは精緻であり、彼は期せずして訪れた人生の岐路に直面したことで文字通り「擬態する」わけだが、自らランゴと名乗ることで初めて自己形成が果たされ、生きることの辛さと素晴らしさに目覚めていくのである。

さまざまな外的要因によって束縛され、自分を抑えつけざるを得ない多くの現代人に刺さるであろうこの物語に思わず胸が熱くなってしまった。

一見すると子ども向けのポップなアニメーションだけど、実はめちゃくちゃビタースイートな大人向けアニメーションだった。
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