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誰も知らないのFilm日記係のレビュー・感想・評価

誰も知らない(2004年製作の映画)
4.6
「万引き家族」を観た時も感じたことだったが、脚本がどうだとか、映像や音楽がどうだとかいった、他の映画をレビューするように語りえないのが是枝監督の映画であることを改めて痛感した作品だった。まさにこれは映画ではなく対話に等しい。我々は是枝監督の語りかけに意志表示という形で何らかの返答をせねばならないのではないか。

とはいえ、ただ単に個人的に感じたことばかりを心象に浸りながらつらつらと述べ続けるのもあれなので、一応映画的なレビューをしておくとしよう。この作品は“語るより見せる”という素晴らしい映画にみられる手法が物語全体を通して終始見られて、登場人物の心情や話の移り変わりがより一層心に強く残り、且つ物語にのめりこみやいものになっていた。例えば、母が帰ってくるはずのクリスマス、また正月や夏の訪れ、家の荒廃や子どもたちの髪が伸びていくさま、食事が手作りのそばやカレーからインスタントのラーメンやそばに取って代わっていくさまなど、言葉では語らずこちらに認識させる運び方はいつも通りの上手さを感じた。

この映画を通して、自分が子供を持ったときに責任もって育てるということだけを胸に刻めばいいのかと言われると、決してそうではない気がする。あの子供たちに救いの手を差し伸べる機会はたくさんあった。コンビニの店員やマンションの大家さん、野球チームの監督など、彼らに接した大人たちは一歩踏み込んで救いの手を差し伸べることはなかった。あの子供たちがどうなったか、捨てた母親を含め、まさに“誰も知らない”のだ。この映画が公開されてはや15年が経過している。いまだに子供の虐待関連の事件は社会にあふれている。我々はあの子供たちのような境遇に立たされた子供たちの存在を身近なものとして“誰も知らない”のではないか。この映画を観た者は作中の大人とは違い、おせっかいだろうとも、救いの手を差し伸べるという一歩を踏み出せる存在であらねばならないのではないか。私はそう胸に刻み、これを是枝監督への返答にしようと思うのであった。

面白さ:1.0 脚本:0.8 人物:1.0
映像:1.0 音楽:0.8
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