風に立つライオン

ブリットの風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

ブリット(1968年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 1968年制作のピーター・イェーツ監督によるハードボイルドなアクション・サスペンス映画である。

 スティーブ・マックイーンほどの大物になると監督を選べたらしい。
 その実、ピーター・イェーツ監督はリアリティーとバイオレンスをベースにカーチェイス物に力量があるとしてイギリスから呼ばれてハリウッド初監督デビューとなったのだ。

 そしてやはり徹底したリアリティーとバイオレンス・サスペンス刑事ものでカーアクションの元祖的存在の映画と言えばこの「ブリット」になるだろう。

 とにかくプロローグからしてクール&スタイリッシュ、ラロ・シフリンのクロスオーバー・ジャズに乗ってカッコいい。

 マックイーンは「荒野の七人」、「大脱走」、「砲艦サンパブロ」あたりで渋味の中に興奮と泣かせをもたらしてくれた我らがヒーローであった。
 シブいと言ってもチャールズ・ブロンソンまでいくと「激シブ」になるが、何というかまろやかさを伴った「コクシブ」といったところか。

 この「ブリット」では一転、クールでハードボイルドな刑事に徹している。

 ストーリーは目を凝らし、耳をそば立てていないと多少複雑なプロットが敷き詰められており見失うと分かりづらい。中盤から伏線回収がなされるに従い割とシンプルなプロットだと分かる。

 物語は坂の街サンフランシスコが舞台である。     
 シカゴのシンジケートの金200万ドルを着服したロスが殺し屋の追跡をかわしサンフランシスコに高飛びし、チャルマース上院議員(ロバート・ボーン)に組織の実態を暴露する条件で証人保護を申し出る。
 チャルマースはロスを公聴会まで匿うことにし、チャルマースの指定した安ホテルの一室に身を隠していたロスを刑事3人が交代で監視することとなった。
 ブリット(スティーブ・マックイーン)が非番の晩、二人の殺し屋がチャルマースを名乗りホテルにやって来る。
 ロスが鍵を外した瞬間ドアは蹴破られショットガンで銃撃を受け、見張りの若い刑事とロスは重体となるが、ロスは撃たれる直前に「約束が違う!」とか口走っている。
 この時のシャープでダイナミックなショットは見応えがある。

 ブリットは殺し屋がチャルマースを名乗って来たこととロスがわざとドア施錠を外していたこからチャルマース議員や事件に何か裏があると思い抱く。

 病院にやって来たチャルマース議員はブリットを職務怠慢となじり責任を追及すると詰め寄るが、ブリットはロスの居所を漏らしたのではないかと逆に食いさがる。
 チャルマースは担当の黒人医師からロスが助かるのは五分五分と聞かされ、明日また来る事を告げ看護師に担当医を変えるようにと指示して立ち去る。(この居丈高で高圧的権威振りかざしぶりには怒りが込み上げ、いったい何様!と言った口ぶりである)
真摯に誠実に向き合う担当黒人医師を観ていると「招かれざる客」のシドニー・ポワチエを彷彿とさせる。

 その晩、死んでいないロスのとどめを刺しに再び殺し屋が親戚を名乗って現れるが、未然に察知したブリットは病院内で追跡を始める。
 地下のリネン室に追い詰めたブリット、振り向くと天井の穴からシーツの束がバサッと落ちてくる。その穴から犯人はまんまと逃走したのだった。
 その後、運ばれたロスは医師達の懸命な処置にも関わらず死亡する。
 ブリットは担当の黒人医師にロスの死を秘匿するよう協力を取り付け、犯人達が再び現れるよう罠を張る。(二人はチャルマースに嫌気がさし、心理的に連帯しているのだ)

 チャルマース議員は執拗にロスの居所を追求するもブリットが相手にしない為、警察上層部に手を回しブリットを担当から外そうと試みる。(ヒエラルキーを駆使するのは権威主義者の特徴である)

 この時、彼の上司のベネット警部(サイモン・オークランド)はブリットに「好きな様にやれ!いざという時は俺が守ってやる」と告げる。
 (いい味出してるぜ!上司はこうでなくっちゃ!)
 サイモンは「砲艦サンパブロ」でも共演しており印象深い。

 こうしてブリットの追跡劇が始まる。
本編の圧巻はやはりサンフランシスコの坂道におけるカーチェイスであろう。
 CGやVFXの無い時代、ブリットが駆る68年型フォード・マスタングGT390と殺し屋が乗る68年型ダッジ・チャージャーが繰り広げる、そのリアルなスピードとクラッシュは極致の緊迫感と迫力を生む。
 アナログが生み出すダイナミズムは50年経っても決して色褪せていない。

 このシークエンスは後の映画に多大な影響を与えた。「バニシング・ポイント」、「フレンチ・コネクション」や「ダーティー・ハリー」、日本ではブリットをモチーフに「太陽に吠えろ」が創られている。

途中、ブリットが街で情報屋から裏情報を得る見返りとして収監中のダチを釈放する取り引きシークエンスなどは後の刑事映画によく使われている。
 また、合間合間に顔を見せる恋人キャシー(ジャクリーン・ビゼット)もこの後、ハリウッドでも名うての美人女優として開花していくことになるが確かに清楚で美しい女優である。

 彼女はブリットが常に暴力と死の世界にいる事を辛苦するが、ブリットもそれを理解していながら仕事として割り切るしか無いと逡巡する様は刑事とその妻や恋人の間に起こる人間描写や心理描写としてよく使われることになる。

 ブリットがそうした殺伐とした世界から立ち帰るオアシスとしてのキャシーの立ち位置感が多分に滲み出ている。

 ところで途中、ブリットがロスの足どりを追って乗り込むタクシーの運転手をかけ出しのロバート・デュバルが演っている。名優も最初はチョイ役から頑張っているのだ。
 チャルマース議員を演ったロバート・ボーンは「ナポレオン・ソロ」でのスパイ役が当たって「荒野の7人」に出演、それが縁でマックウィーンに口説かれ本編に悪役として登場している。

 終盤、事件は大きく展開していく。
 殺されたロスは偽物で本物のロスに傭われたレミックと名乗る男であり、連れの女もロスにより既に殺されていた。
 
 殺されたのは替え玉と知った時のチャルマース議員の唖然とした表情を見ると、本物ロスにチャルマースもまんまと騙されたと分かる。
 そのシナリオはこうだ。

①ロスは殺し屋を雇いチャルマースと名乗らせホテルに差し向ける。
 ロスが殺されたことによりシンジケートや警察からの追跡はなくなるし、自分はレミックのパスポートを使い高飛び出来る算段なのだ。
 公聴会などにははなから出席するつもりもなくチャルマース議員も騙されたことになる。

 このことを見抜いたブリットは、その遺留品からロスはイギリスへ高飛びする計画である事を掴み急遽空港へ。
 飛び立とうとする旅客機を止め、捜査をしていると後部ドアから逃げる男がいた。
 ブリットは夜間の離着陸が激しい旅客機の行き交う間を追跡するもターミナルに逃げ込んだロスは人混みに紛れ込む。ブリットは人混みの中をくまなく観察する。
 そして‥。

 この物語展開が妥当な解釈だろうと思う。
 ただし、見方によっては次なるシナリオも考えられる。

②ロスとチャルマースは共謀し、
ロスの替え玉を立て、ブリット達
に替え玉を護衛させ、シンジケートにチャルマースがそれを教える。
 シンジケートの殺し屋が替え玉をロスと思って殺す。本物はその後高飛びしチャルマースも騙される。
 ただし、ロスからチャルマースが金をもらっていてそれも承知であるケースもあり得る。

③ロスはチャルマースに証言を条件に保護を得るが、チャルマースがシンジケートと取引し内通する。シンジケートの殺し屋が来てロスを殺す。ロスはレミックのパスポートで高飛びする。チャルマースもシンジケートもロスに騙さ
れたこととなる。

ただ②、③はいくら悪徳政治家と言えどもそこまでのリスクは負わないと思う。しかしいずれのシナリオもブリット達は責められる構図だ。

 一つ難を言えば、殺し屋達はプロである以上ホテルに踏み込んだ時、確実にとどめを刺すべきであった。

 かなりラストに来て深読みができる余地があるが、余計な説明が無く映像で観せていくタイプの映画だけに結果、推理が膨らんで面白い。

 
 いずれにしてもリアルで凄まじいバイオレンスがあり、スピードとハードボイルド感が満載のマックウィーンの代表作と言えるだろう。