せーじ

ジョゼと虎と魚たちのせーじのレビュー・感想・評価

ジョゼと虎と魚たち(2003年製作の映画)
4.1
拙いながらも感想を書き続けて100本目、どういう作品にしようかなと思っていたところ、目に止まった作品。
ちょうど朝ドラの再放送で「カーネーション」を観ていて、渡辺あやさんが脚本を書かれているということもあり、レンタルして鑑賞。
なかなかにごっつい作品でした。

なんと言っても、ジョゼ(クミコ)役を演じている池脇千鶴さんの吸引力がすごい。ちょっとハスキーなおばちゃん臭い喋り方もいいし、「帰れって言われて帰るような奴は帰れ!」と怒ったあとに泣きながら「…帰らんといて」なんて言われた日には!
それはもう、健全な男子としては反則であるとしか言い様がないわけで、その時点でこの作品にクラっとしてしまっても致し方はあるまい。
一方でこの作品は、まるで「人魚姫」みたいだなとも思ったり。例えるならば"異世界恋愛モノ"だと言ってもいいのではないかとも思う。主人公と彼女を取り巻く環境が全く違い、本来はかかわる事が無かったであろうそれぞれの"世界"の住人同士が、偶然にも出逢って心を通わせ合う…という物語は、王道も王道、ど真ん中を射抜くお話だとも感じた。

それだけに、このお話がハッピーエンドで終わるはずがないというのもまた王道であり、実際その通りに仕掛けやディテールがいくつも用意されていて、最終的にそうなっていくというのは、わかっていてもほろ苦さを覚えてしまう。
主人公が軽~い大学生であるというのも含めて(だからどんどん仕掛けに引っかかるし、自力で解決できないという人間的な未熟さがあるのだという説得力がある)、予測はできても逃れられない物語構造がとても秀逸で、テレビの前でのたうち回るしかありませんでした。
そういう意味では、本当にズルい、あざとい作品だと思います。

ただ、劇中で何カットか、北野映画っぽい演出(物語とは直接関係ない脇役が静止して凝視→何かがおこる、みたいな)を安易にやっていたりして、そこはちょっと残念でした。そういうのはやらなくてもいいのに…
それと、上野樹里さんが演じている彼女のように、普段は気がつかない、自分自身の内面にある醜い意識や考え方があらわになる作品だとも思うので、個人的にはカップルで観るのには向いていない(観るのだとしても、先に独りで観ておいた方がいい)作品なのかもしれません。

さて、古本屋や図書館で、サガンのジョゼシリーズを探さなきゃだな…
せーじ

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